生物多様性とシステム思考

Life
文字数:16,751字 | 読了目安: 約21分 | 2024.09.09 | 2024.09.11

生物多様性は自然界の複雑なパズルのようなもので、個々のピースとなる生き物が互いに影響し合っています。繊細な動的平衡を保ちながら躍動する構造を理解するには、個々の要素だけでなく、全体を俯瞰する視点も必要です。

「成長の限界」の著者として知られるドネラ・メドウズ(1941-2001)が、複雑な問題を相互に関連する要素の集合体として捉え、全体構造と要素間の動きを見て適切な介入を行う方法として提唱したのがシステム思考です。

全体をシステムとして構造的にとらえる思考は、複雑化した現代社会の課題に取り組む上で重要なツールと位置付けられます。

システム思考と生物多様性という、わたしが関心を持っている2つのピースを掛け合わせた素晴らしいイベントが開催されるということで参加してきました。GREEN×GLOBE Partners(GGP) の「生物多様性の問題を構造化するシステム思考ワークショップ」です。

今回は、ワークショップで学んだことを含め、システム思考と生物多様性についてシェアしたいと思います。

生物多様性のそもそも

生物多様性についてなじみの薄い方のために簡単に解説しておきます。

1992年、国連環境開発会議(地球サミット)で国際環境条約の一つとして生物多様性条約が採択されました。2010年のCOP10で愛知目標を定め、2022年12月のCOP15昆明・モントリオール生物多様性枠組が採択されています。

細かな定義とともに多くの目標が設定されてきましたが、要するに「人間は生物多様性から多くの恩恵を受けているのだから、生物多様性の豊かさを育んでいこう」と196カ国が合意したということですね。

愛知目標では、森林減少の抑制、絶滅危惧種の保護、持続可能な漁業や農業の推進などが具体的な目標として挙げられ、COP15ではより自然環境を豊かにしていくことを目指してネイチャーポジティブといった目標も掲げられています。

なぜ生物多様性に取り組む必要があるのか

多様な生物が存在することで生態系のバランスが保たれています。自然環境はわたしたちにとって食料や生活物資の供給源でもあり、人類の生存条件とも言えるものです。多様な環境に適応した多様な生態を持つ生物が存在することで、生物全体で見れば環境変化によって全滅するリスクを回避することもできます。

地球は寛大で人類に多様な恩恵を与えてくれている一方で、人類は傍若無人にふるまっており、地球への感謝を忘れています。しかし、人間が自然環境に悪影響を与えていること、多様な生物が絶滅していることは多くの方が認識していることであり、心ある人は何かしなければと思っているはずです。

地球が提供してくれる価値を再認識するため、自然資本や生態系サービスという形て価値を評価していこうという概念が導入されました。しかし、複雑な自然環境と人間活動の関係性を定義していく作業は簡単なことではありません。

人類の環境への意識は高まっていますが、レジ袋の有料化とかストローの廃止とか、ピントのずれた対策の弊害も大きくなってきました。間違っているとまでは言わないものの、個別の環境対策と全体整合性との間に大きな乖離があり、矛盾や無駄も溢れている状況です。

生物多様性の難しいところは、地球規模で環境を考える規模感と、実際の生息環境にいる生物種を調査して生息数を把握するなど、極めてマクロで包括的な視点と極めてミクロで局在的な知見を時間軸も含めて動的に考える必要があるというところにあります。

本当に有効な解決策を適切に実践するには、市民の意識と知識を高めていくことも必要です。

ヤマネから森、人、社会へ

わたしの場合、絶滅が危惧されているニホンヤマネの研究保護活動を支援するところから始まり、道路で生息地が分断されてしまう森林の課題を解決するために樹上性動物のための歩道橋「アニマルパスウェイ」を架けるという活動、人間と自然環境の関係性を考えて生物多様性を育む活動へと関心領域の幅を少しずつ広げてきました。

アニマルパスウェイ研究会の一員としてCOP10に参加して、素人なりに考えてきたテーマの一つが生物多様性と人間の関わりです。

COP10で配布するノベルティとして樹上性動物のクリアファイルを制作したのが、我が社のグッズ事業のきっかけとなりました。

当時、クリアファイル一つから始めたグッズもいまや400種類以上となり、動物の種とグッズとしての種類の組み合わせも考えるとなかなかのカオス状態となっています。

生きもののグッズは、野生動物とその生息環境に関心を持ってもらう上でも効果的で、樹上性動物をテーマとした企画展を開催するなど、グッズやアート、野生動物の保護研究活動、生物多様性の啓発活動などをつなぐ企画として実施してきました。

まずは知ること

まずは対象を知ることが大切です。現在、生きものたちが置かれている現状はどのようなものか。どのような生きものが、どのような生態を持って、どのような環境で生息しているのか。対象を知らないことには、育むことも出来ません。

環境意識の高い英国では、野生動物保護団体や環境保全団体の会員数も多く潤沢な資金に恵まれています(うらやましい〜)。同時に市民科学も発展していて、知識も意識も高いレベルにあるので、より適切な施策が実施されやすい環境にあるようです。一方、日本の野生動物保護団体は資金不足、人手不足に悩まされているところが多いことでしょう。

英国王立鳥類保護協会(RSPB)の会員数は110万人。一方、日本野鳥の会の会員は5万人を切ってしまったようで、人口比で見たら約40分の1以下です。

民度と歴史の違いと言ってしまえばそれまでですが、教育を含めて、知識、意識、資金の底上げをしていく必要があるものと思います。そのためには、自然や生きものに関心を持つ人を増やし、情報を伝えていくことも大切です。

我が社で手がけているグッズやアプリも、こうした文脈に貢献していければと考えて取り組んでいます。

本ブログでは何度か紹介していますが、グッズ事業で連携している薮内正幸美術館は、動物画家として著名な薮内正幸さんの作品を1万点以上、収蔵されています。多くの図鑑を手がけられた薮内さんは、細かな識別上のポイントなど、生物学的な知見に基づいて、多様な種の微妙な違いを描き分けています。

図鑑というと無機質な印象もありますが、薮内さんの作品は動物のことを深く知り、一番魅力的な姿を正しく読者に伝えたいと思う情熱が溢れています。深く動物を愛するがゆえ、対象を緻密に観察し、膨大な資料収集と考察も長年に渡って続けておられました。

ときに、生物種の同定は複数の図鑑を参照し、標本比較や資料収集を行うなど、緻密な観察と分析に基づいて行われるものです。生物多様性を育む第一歩である「知ること」は地道な調査による継続性や一貫性をもったデータの収集と蓄積が欠かせません。

そうした基盤のもとに、全体を俯瞰した視点で統合していくことが必要です。

GREEN×GLOBE Partners のセミナー

GREEN×GLOBE Partners の生物多様性セミナーも、企業人、社会人に生物多様性の知見を浸透して、知識と意識を高めていこうとされているもので、素晴らしい取り組みだと思います。第二回のセミナーでは、ミクロなデータの蓄積をマクロの視点で可視化することや、ビジネスの視点で事業活動として展開していることで注目されているシンク・ネイチャーの取り組みが紹介されています。

講義の内容は、YouTubeで動画を見ることが出来るのでお勧めです。ページ下部にリンクを置いておきまので、ぜひご覧ください。

こうした背景から、第三回となる今回の「生物多様性の問題を構造化するシステム思考ワークショップ」が企画されたものと思います。ぼくにとっても渡りに舟の企画でしたし、結構高度な内容にも関わらず、多くの方が参加されていました。

森林と生物多様性

今回のワークショップでは、以下の3つのお題が出されて、各自が関心のあるテーマでシステム思考のループ図を書いてシェアするという企画でした。

1)生物の多様性が損なわれる要因は何か
2)EUの農業政策が生物多様性の喪失を引き起こしたのはなぜか
3)太陽光発電施設が生物多様性の損失をもたらしてしまうのはなぜか

わたしは、ヤマネを始めとする樹上性動物の保護活動に関わってきて、森林環境の保全、持続可能性はたいへん関心を持っている分野です。そして、北杜市に住み、太陽光パネルの問題も身近に見ているので、生物多様性と太陽発電施設の関係についてのお題を選択しました。

ワークショップに参加する前、思いつくまま作ってみたフロー図が以下のものです。

システム思考とループ図のルールについて説明を受ける前に作成したものなので適切に構造化されていませんが、自分としては頭の中のごちゃごちゃをだいぶ整理出来た気がします。

(結局、課題としては、お金と人の意識に行き着くんだよなぁ〜。)

当日、ワークショップに参加して、変数、変化量、ループについて解説をいただいてから、今回のワークショップに沿う形で作り直したものが以下です。

変数として置く項目と書き方にコツとルールがあるようで、特に変数として置く項目には最初にわたしがやったような○○の減小とか、△△の増加のように、テキストに増減は入れない方が良いようです。

何らかの改善を意図してループを逆回転させたいわけですから、項目はストックとして置いて、矢印で増減を定義しておくということのようです。

矢印は、同じ方向で強化するか反転させるかという意味で、S(ame)またはO(posite)と置くという説明でした。

ただ、ストックに増減を書かないとすると、矢印の(S)強化するか(O)反転させるかという定義だけでは、増減や効果の良否を直観的にイメージできないので、関連書籍を読んで適切な表現方法を探しているのですが、いまいちピンと来る解説がありません。

ということで、まだまだ試行錯誤しているところです。

ループ構造を見る

システム思考のステップとしては

1)問題を構成しているストックとフローを挙げる
2)フローについて、強化か抑制か、インかアウトかを定義する
3)ストック間、フローの関係を見る

という順で考えると良いように思います。

現在のストックの状態がどのようなインとアウトでバランスしているのか、増加しているのか、減小しているのかを見ていくわけですね。

システム思考は、重要なループ構造を見つけて、効果的に介入するポイント=レバレッジポイントに対して、有効なソリューションを考えることと言えます。森林と生物多様性について、引き続き考えていきたいと思いますが、今回のところの結論は後ほど言及します。

ここでは、システム思考とオンラインホワイトボードを活用したワークについて考えてみたいと思います。全体の構成を視覚的に共有して、一定の法則に基づいて意見交換出来ることはたいへん有意義です。

一般的に複雑な課題では用語の解釈の相違とか、ちょっとした言葉のニュアンスで議論が迷走しやすくなってしまいやすいものですが、システム思考とオンラインホワイトボードがコミュニケーションのガイドとなります。

オンラインホワイトボードで考える

オンラインホワイトボードのmiroを使ったイベント参加は始めてでしたが、とても興味深いものでした。マインドマップ系のツールは自分の思考を可視化して整理する上で効果的ですが、グループワークで他の参加者の思考もリアルタイムで可視化されて共有出来ると、議論の質・量ともに一段と高まります。

一般的に会議やワークショップで、複雑な問題についての思考を共有するのは簡単なことではありません。特に今回のようなイベントでは、他の参加者と共有出来ている前提知識や文脈もわからないので、どこから何を話せば良いやら状態になってしまいやすいものです。

一方でオンラインボードで思考の場を共有できると、課題の全体像もディテールも、参加者のみなさんの考え方もわかりやすくなるので、有意義なコミュニケーションが出来るように思います。

今回のワークショップでは、ぼくを始めシステム思考のフロー図を書くのが初めての方や、miroの操作やループの考え方でとまどっていた方もいて、時間が短かったこともあり、少し消化不良なところもありましたが、全体的にはたいへん有意義な機会でした。

今後、いろいろな課題について、ループ図を考えてみたいと思います。こういうのはとにかく自分でやってみるのが一番、上達の近道です。ボードを共有してお互いに壁打ちのようなことをするのも良いかもしれません。勉強会のようなことが出来ればと思っていますので、興味のある方がおられましたらお気軽にご連絡ください。

思考ツールやフレームワークの重要性

ちなみに、アイデアプロセッサ、マインドマップ、ホワイトボードといった思考支援系のツールは、30年前に勤めていたソフハウス時代から何度となく企画開発に関わったこともあり、関心を持ってきた分野でもあります。

最近は検索と生成AIが思考プロセスと密接に関わってきて、この分野でも大きな変革が起こりそうに思います。miroでも生成AIが導入されましたし、与えた情報をマインドマップ形式に展開してくれるMapifyや概念図として作図してくれるNapkin AI など、思考とデジタルツールをセットとして頭の使い方をアップデートしてく必要を感じています。

いろいろ試行錯誤しているところですが、このあたりのトピックは、また別の記事で紹介したいと思います。いずれにしろ、システムを構造として理解した後、解決策を考えるときは、トゥールミンロジックの論理構成が適していると思います。

システム思考は奥深い手法なのでまだまだ分かっていないことも多いですが、基本的な考え方を理解するだけでも十分に効果的です。ループを見つけてレバレッジポイントを探るというだけでも、フレームワーク不在の議論には出来ないレベルの解決策に到達出来るはずです。

悪循環を断ち切る

特に、悪循環を見つけて好循環で回るようにする発想はめちゃくちゃ重要です。紛争問題でも貧困問題でも、人材教育でも環境保全でも、介入し続けることが必要な解決方法は持続可能でないばかりでなく、多くの問題を内在しています。

介入に関連する行為が依存を生み、既得権化したり、手段が目的化してしまって、新たな問題を生み出してしまう可能性さえあるはずです。あくまでも一時的な介入によって、その後は自律的に課題か解決されていく構造を作ることが重要です。

そして、マインドマップ系の思考ツールでは発散しすぎる傾向も、着地点を持つことで、議論の発散を防いで集中させることができます。

「悪循環のループ構造を見つけて、好循環に逆転していく解決策を考える」

適切な目標と解決策

ドネラ・メドウズ氏の著書「世界はシステムで動く ―― いま起きていることの本質をつかむ考え方」では、解決策が失敗するパターンを類型化して、以下のような原型を注意すべきポイントとして提示してくれています。

  • 施策への抵抗
  • 共有地の悲劇
  • 低パフォーマンスへの滞留
  • エスカレート
  • 成功者はさらに成功する
  • 介入者への責任者転嫁
  • ルールのすり抜け
  • 間違った目標の追求

それぞれの解説は、同書を参照いただくとして、ここでは「間違った目標の追求」を考えてみましょう。

「間違った目標の追求」は致命的なものですが、日本の政治、行政、企業活動、社会活動、身近な問題でも良く見かける失敗の原型です。失われた30年とも言われる平成から令和の時代は、まさに「間違った目標の追求」のオンパレードです。

  • コンビニのレジ袋有料化
  • 脱プラスチックでの紙ストロー転換
  • 二酸化炭素排出量に偏重したエネルギー政策
  • ゼロリスクを絶対視したコロナ対策

いまや、社会で目の敵にされているプラスチックは、原油利用の副産物として利用されている側面を持つ資源です。プラスチックの原料はナフサであり、重油・軽油・灯油・ガソリン・プロパンガスなどと合わせて分離されます。

最も重い残留物がアスファルトであり、道路舗装に使われています。田舎に暮らし、砂利道、悪路に苦戦している身としては、アスファルトもありがたい資源です。

石油も地球の恵みであり、立派な自然資本の一つです。単純に石油を悪者にするような環境運動は思考停止を招き、弊害も大きいものです。脱炭素や脱プラスチックの運動を展開するにしても、総合的な資源利用形態に基づいて考えるべき課題です。

しかし、レジ袋の有料化問題では、当時の環境大臣は小学校の道徳レベルで「プラスチックを使う子は悪い子です」みたいなポエムを語るだけで、とても総合的で理論的に構成された政策には見えません。

紙ストローも有害性が指摘されている有機フッ素化合物(PFAS)でコーティングしたり、湿気を防ぐためにプラスチック(PP)包装してまで、紙ストローへの転換に力を注ぐことはバランスを欠いた取り組みに見えます。

もちろん、使い捨てをやめていくことは普遍的に必要なことです。しかし、大量のプラスチック製品を大量生産して安価に販売している企業が、「環境対策のためにレジ袋を有料化させていただきます」とか「紙ストローに変更しました」レベルのことを得意気にアナウンスをしている事例も多く、軽薄なファッションとしての環境対策という印象は否めないものです。

議論を深める

本来は全体的な視野と整合性について、議論を深めていくことが必要ですが、社会は逆行しています。一面的な問題を過大に取り上げ、何かを悪者にすることで、正義の見方ごっこをしているような幼稚な環境活動も増えています。

近年、環境保護や人権保護の過激な活動が目立つなど、SDGsとその周辺にはキレイ事だけでは片付けられない問題が山積しています。一定の意図を持った勢力が、自らの利権に有利になるように活動団体を組織したり、公的機関・学術機関・報道機関に対して金と情報統制による誘導工作を仕掛けていることも疑っておかなければなりません。脱炭素、太陽光発電、EV(電気自動車)は特にその傾向が強い分野です。

生物多様性も、利権勢力に悪用される可能性も注意しなければなりません。企業が企業論理に組み込むために必要なこととは言え、自然資本や生態系サービス、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)といった概念には、自然や地球の恵みに感謝するという精神性、対象となる生きものたちへの敬意や愛という概念が含まれていません。

すべてを相対化し、数値化することには、生命倫理への計り知れないリスクを内包しています。

特に生命を私有するかのようなタネの特許化や遺伝資源に関するデジタル配列情報(Digital Sequence Information, DSI)の利益配分に関する議論などは警戒が必要な分野です。

そもそも論から考える習慣を

日本人は長らくルールに従うばかりで、ルールやそもそもの前提を疑う能力が欠如してしまいました。スキージャンプ競技もF1レースも自動車規制も日本が有利になると、欧州勢はルール変更をしかけてきます。世界にはそもそもルールを守るより、勝てば官軍的な精神構造の人間が多い国も少なくありません。

品格と礼節を欠いたJUDOになってしまった柔道を始め、国際的なルールを作る際に日本がリーダーシップを発揮出来ない傾向も問題です。日本人は深い議論を積み重ねる習慣と、強かな精神を取り戻す必要があります。

直観と普通の感覚の大切さ

システム思考における分析も、実は哲学や倫理が問われているのであり、直観や普通の感覚を大切にするべきだと思います。

直観的に言って、「伐採で森林面積が減ることは良くないので植林するべきだ」と思うのは普通の感覚です。しかし、世界経済フォーラム(World Economic Forum, WEF)や科学者の一部は、普通の感覚を忘れています。ビル・ゲイツは「アマゾンの原生林を伐採する農地改変」は問題ないと言い、「牛のげっぷから出るメタンガス」を過大に問題視しています。

しかし、大気中のメタンガスは約12年で分解されて、二酸化炭素と水になるはずです。そして、二酸化炭素は成長期の植物が吸収して成長します。金融資本勢力は自らが儲からない植林事業には目もくれず、自らの利権を確保出来る技術を推進しようとしているのだと思います。

国際機関やメディアに盲従しない

メタンガスの温室効果を過大に問題視して、牛のげっぷや水田で水草の腐敗によって排出されるメタンガスを減らせと言っている主張が純粋に科学的な動機であれば従っても良いのですが、金融資本勢力が自ら投資した分野で自らに有利な状況を捻出しようとしている傾向も疑っておく必要があります。

本来、真理を探求するはずの科学者も研究資金がなければ研究も出来ないわけで、金になる研究が優先されすぎています。金融資本勢力は配下のメディアと学術機関を利用して、温暖化リスクを過大に煽ることで、太陽光発電、電気自動車、ジオエンジニアリングなどの分野で金儲けを画策しています。

ジオエンジニアリングでは、硫酸エアロゾルで太陽光を遮る太陽放射管理(Solar Radiation Management, SRM)などという研究までしているようです。

SRMを始めとするジオエンジニアリングでは人為的に自然を管理・統制出来ると思っているようですが、いったい、どこまで傲慢なのでしょうか。マッドサイエンティストと言えば良いのか、頭でっかちな科学教信者とでも言えば良いのかわかりませんが、どうにも彼らの価値観には異様なものを感じざるを得ません。

そして、ワクチン問題でも露呈したように、科学教の元締めとなる学術機関や公的機関は科学を過信しているか、科学から得る利権構築と市場支配に躍起になっている金の亡者たちの影響下にあります。

本当に地球環境を再生するには、お花畑脳、科学教信者、金の亡者たちに影響されないことが重要です。科学教信者と金の亡者は、地球に感謝することもなく、少しでも効率的に利益を得ること、自然資本から収奪することばかり考えています。

樹木は二酸化炭素を吸収して炭素を固定して成長しています。現在の大気中に二酸化炭素が増えている主な要因は、農業を含めた以下の3つに集約出来るはずです。

1)単一種栽培と薬剤・化学肥料に依存した近代農業によって、土壌の有機物が減っていること
2)森林を伐採して土地を他の用途に利用してしまうことで、森林面積が減少していること
3)百年単位で形成されてきた森林を伐採して、単一樹種の森に改変してしまうことで、再生不可能な林床と有機的な生態系を破壊してしまうこと

思考を行動につなげる

ということで、いろいろと考えてきましたが・・・、思考をいかにして行動につなげていくかが重要です。

次の行動にエネルギーを与えてくれない思考は害悪でしかありません。本ブログでも何度か紹介している本田宗一郎氏の言葉です。

「理念・哲学なき行動は凶器であり、行動なき理念は無価値である」

太陽光発電施設と生物多様性の課題について、素人なりに考えた結論は「針葉樹・広葉樹の混交林を推進する」「森林を伐採する建設を防止する」ことです。一市民として、少しでも行動出来ることがないかと思うわけですが、そのためには林業が持続可能な事業として成立する必要があり、多様なことを考える必要がありそうです。

針葉樹・広葉樹の混在する森へ

スギ・ヒノキといった針葉樹から広葉樹への転換も少しずつ行われていますが、植樹する種類の選定、間伐・伐採や育苗・植樹の周期はどのように決めていけば良いのでしょうか。薪・ペレット・ウッドチップなどのバイオマスは、エネルギー政策としてどのように位置付けられるでしょうか。

木材資源の利用促進も、輸入材との競合を踏まえて伐採から運搬・乾燥・製材まで含めた採算性も考慮しなければなりません。河川流域として見た治水や利水、水源涵養、環境教育やリクリエーションの場としての活用、獣害対策、山岳信仰や登山道整備、山林所有に関連する法整備、山菜やきのこなどの山の恵みを含む共有概念の醸成などなど、関連する項目は多岐に渡り、総合的に考える必要もあります。

生物多様性の視点もどのように統合していけば良いのでしょう。

森の動物にとっては、広葉樹はもちろん、朽ち木や枯れ木、蔓性植物など、植物の多様性は重要な要素です。フクロウは朽ちた大木の樹洞で営巣・子育てをしますし、朽ち木はヤマネの冬眠場所にもなります。山ぶどうやあけびといった実のなる蔓性植物は動物たちの貴重な餌資源でもあります。

しかし、林業視点では実に管理がしにくい、朽ち木・枯れ木・蔓性植物は排除の対象となってしまいます。また、生物多様性の視点では、在来の植生を回復していくことも必要です。80年近くスギを中心とした人工林として営林してきた山林を、80年前とは異なる気候条件の中、どのような森に回復していくことが適切なのでしょうか。

日本の農山村は高齢化が進み、里山を管理する人が減小している中、担い手不足の問題も深刻です。

指針と希望はどこに?

素人なりに調べて考えていると、日本では大地の再生を実践されている矢野智徳氏やスギと広葉樹の混交林を提案されている清和研二氏らの活動に指針と希望を見ることができそうです。

カナダの森林生態学者スザンヌ・シマード氏の「マザーツリー」や土壌の生物多様性を高める農業を実践している米国の農家ゲイブ・ブラウン氏の「土を育てる」を読むと、20世紀型合理主義一辺倒の農林業を改革し、新しいスタイルを確立されている事例も見え始めています。

生命を慈しみ、自然を有機的に見る感性と知性を持つスザンヌ・シマード氏とゲイブ・ブラウン氏の取り組みは素晴らしいものです。科学的なデータで実証されていることもあり、今後の普及が待ち望まれます。

ただ、TEDでのスザンヌ・シマード氏の講演があれだけの反響を呼び、マザーツリーは映画化までされるのに、カナダでもあいかわらず皆伐されてしまうことが多いようです。林業の現場での改革が遅々として進んでいない深刻な現状を今年5月の講演で知りました。

地域の環境や実情ごとに解決の手法もローカライズする必要があるとは言え、20世紀型の画一的な管理手法と社会構造で突っ走ってきたシステムを転換して、ローカルに実践していくのは一筋縄ではいかないようです。

まだまだ学ぶこと、考えること、行動することがたくさんありそうですので、システム思考も活用しつつ、考えていきたいと思います。

つながりと学び

一市民、一企業として出来ることは、森に関わる方たちとのつながりを増やし、森に関心を持つ人を増やし、共に学び考えて、行動していく人を増やしていくことかもしれません。

ここまで考えてきたように、生物多様性の涵養には極めて広い範囲の知見と専門性を統合していくことが必要です。GGPのセミナーもそういう文脈で企画されたものと思います。素晴らしい企画でしたので、今後もまた機会があれば参加したいと思います。

わたしのような一市民でも多様な学びの機会を通じて、何かしら貢献出来ることがあるはずです。学ぶ機会、つながりをつくる機会を持ち続けていきたいと思います。

ちなみに、先月はわたしの住む北杜市で、第二回日本山岳保全サミットが開催されましたので、聴講してきました。

山岳保全サミット

山岳保全という文脈で見ても、平成の大合併以降、登山道整備はなおざりにされてきて、日本各地で危機的な状況のようです。北杜では登山家の花谷泰広氏が中心となって北杜山守隊が設立されて登山道の整備活動をされています。

第二回のサミットでは、山岳歩道整備に体系的な取り組みされている台湾千里歩道協会の研究者を招聘してお話しを聞き、日本の活動を推進していこうという趣旨でした。

台湾は登山に許可制を導入するなど先進的な取り組みで知られていますが、官民の連携体制、多様な問題を類型化して対応策を整備するシステムの確立、保全活動自体をイベント化して、より多くの人に楽しみながら参加してもらうエコツーリズムの活用など、多くの自然保護活動にとっても参考になるお話でした。

ヤマネと森をテーマとした生物多様性セミナー

2024年10月17日(木)〜18日(金)には、ヤマネと森をテーマとした生物多様性セミナーが北杜市で開催されます。ヤマネ好きな方はもちろん、野生動物と森林の関係、生物多様性に関心のある方にお勧めです。

(一社)ヤマネ・いきもの研究所では、生物多様性を考慮した事業活動を創出するための企業人向けセミナーを実施しています。このセミナーシリーズは、講義、フィールド体験、ワークショップなど、知識や情報をリアルな体感と臨場感を伴って学べる構成になっていてお勧めです。

ぼくも企業緑地の取り組み事例を学ぶ場として二子玉川RISEで開催された回のほか、2024年7月1日〜2日と八ヶ岳の田んぼで生きもの調査を体験する回などに参加させていただきました。

以下は、セミナーの募集案内ページです。

本ブログでは、ヤマネについて以前の記事でも取り上げています。

コロナ以降、医療と健康といった人間の生存そのものから暮らしのあり方まで、根本から問われる機会が増えました。人間の健康は農と食に密接に結びついていて、農は地球と自然、生物多様性に深く結びついています。引き続き多様な機会を通じて、考えていきたいと思います。

複雑で難しい課題ではありますが、自然に向き合い、生きものを身近に感じる活動は楽しく、やりがいのあるものです。生物多様性に取り組むみなさんの活動がどこかでつながり合い、響き合うことを願っています。

関連情報

GREENxGLOBE Partners 【生物多様性を手繰り寄せるシリーズ】

今回参加したGREENxGLOBE Partners のイベント案内ページです。

GREENxGLOBE Partners のYouTubeチャンネルで、シンクネイチャーと積水ハウスの取り組みについて「生物多様性とデータとビジネス」の回も全編視聴出来るのでお勧めです。

世界はシステムで動く ―― いま起きていることの本質をつかむ考え方

システム思考のバイブルのような書です。本編は多様な分野での事例を挙げて解説してくれているので、状況をイメージしやすく肚オチもしやすいものです。巻末の付録は、システム思考の用語や概念について簡潔にまとめられていて、たびたび見返すことで思考に根付かせていくことができます。

本書の帯に「システム思考は、今日における必須の教養である」と脳科学者茂木健一郎氏の推薦文にあるように、複雑多様化した情報社会で自律的に生きていくには必要不可欠なものと思います。

訳者である枝廣淳子氏の言葉にもとても共感します。現代人の短絡的な思考、情緒優勢の短文コミュニケーションが氾濫している社会状況を見るにつけ、義務教育レベルでシステム思考を採用しておくべき必要性を感じます。

出来事に一喜一憂、右往左往し、後手に回って対応するのではなく、目の前の出来事がどのような大きな趨勢の“一角”なのか、その趨勢を作りだしているのはどのような構造なのかを考え、見抜くことができるとしたら、毎日がどれほどラクになることでしょう。

枝廣淳子

マザーツリー

本書は、一人の女性が数多の困難を乗り越え、森林生態学者として成長していく自叙伝であり、学術的な真理がどのように探究されて形成されていくかのドキュメンタリーでもあります。菌根菌のつながりが解明されていく様はミステリー小説、活き活きとした森のいきものたちの輝きが感じられる情景描写は詩編のようでもあります。

森は全体で有機的な一つのシステムとして、生きています。母なる木を中心とした樹木のネットワーク、土壌の菌根菌たちとの交流、すべてがつながっており、すべての存在に何らかの知性が内在していることを感じさせてくれる素晴らしい本です。

そして、全体的でホリスティックなシステムである生命現象は、科学では理解出来ないことを、彼女の言葉をお借りして強調しておきたいと思います。

そしてまもなく私は、生態系全体の多様性とつながり合いについての論文を書くのがほぼ不可能であることを知ったのだ。対照群がないではないか!と、私の初期の論文の査読者は叫んだ。

〜中略〜

統計的有意性のある顕著な差だけを考慮する訓練などを通じ、ぐるりと一巡して先住民の人々が持っていた叡智に辿り着いたのだ

チャーミングなシマードさんのTEDの講演もお奨めです。

2024年5月、シマードさんが来日されて、「カナダの森の叡智を紐解く 気候と生態系を守る森を燃やすバイオマス発電は「再エネ」なのか?」と題して講演が行われました。

日本の再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)補助金が利益目当ての発電事業者の暴走を助長して、トレーサビリティに疑念のあるペレットの輸入を拡大する要因となっているようです。

まさか、ブリティッシュコロンビア州の原生林が伐採されてバイオマス発電用のチップとなって、日本向けに輸出されているとは・・・かなりショッキングな内容でした。

土を育てる 自然をよみがえらせる土壌革命

土壌の健康を重視し、持続可能な農業を目指して、以下の6原則で構成する農業手法を解説する書です。1) 土をかき乱さない、2) 土を覆う、3) 多様性を高める、4)土の中に生きた根を保つ、5)動物を組み込む、6)背景の原則

著者のゲイブ・ブラウン氏は自然志向な方ではありますが、プラクティカルなアメリカ人らしく、C/N比(炭素比率)や土壌有機物量などのデータもとっていて、理論と実践が科学的にも実証されていることが実感出来ます。

スギと広葉樹の混交林 蘇る生態系サービス

スギ単独の人口林から広葉樹との混交林へと生態系の豊かさを回復していくための具体的で理論的な手順が示されています。行政や森林組合にこの考え方が広まって採用されていくと良いのですが、実際に現場に根付くまでには時間がかかりそうですね。

「大地の再生」実践マニュアル: 空気と水の浸透循環を回復する 

造園家・矢野智徳氏の提唱される「大地の再生」は、水や空気の流れ、脈を見て、自然の循環を回復することで、自律的に環境が整っていくようにする手法です。基本的な作業の一つは、スコップ一つで水の流れ、空気の流れを作り、自然に環境が再生されていくというシンプルなものですが、各地で実践されて効果を挙げているようです。

自然の持つ潜在的な力、流れを活かして、適格なポイントにアプローチする手法は、システム思考のレバレッジポイントを見いだす手法とも共通点があるように思います。

大地の再生を普及活動されている杜の財団は山梨県上野原市にあり、北杜にも大地の再生手法を学んだ方がおられるので、機会を見て講習などに参加してみたいと考えています。

アプリ・サービス

miro

今回のワークショップで利用したオンラインホワイトボードのサービスです。使い勝手も良くて、特にグループワークでの機能や操作性が良い感じでした。

Mapify

テキスト、PDF、WebサイトのURLなどを読みませると、マインドマップ形式に展開してくれます。わかりにくい行政関連のPDF資料や法律文書、学術論文なども、ざっくり構造的に把握することが出来るので、調査や企画時にとても重宝します。

マインドマップ自体はあまり使わないのですが、従来通りにマインドマップを作成するツールとしても使え、操作性も良いと思います。

Napkin AI

アイデアが閃いたとき、紙ナプキンに書き留めるという行為にちなんだネーミングが良いですね。概念図をさくっと生成してくれるサービスです。図版を作成する手間を大幅に軽減できます。そのまま使っても良いですがPDF/SVG/PNGにエキスポート出来ます。先日、日本語にも対応したのでオリジナリティを高めた図版制作もだいぶ時間を短縮出来るようになりました。

miro/Mapify/Napkin AI のいずれも今後の発展が楽しみなソフトです。