35年使ってきたFileMakerをやめるわけ

さようなら、FileMaker——35年目の移行実践録(ガンの飛翔とMacintosh SE/30の線画) Engineering
文字数:8,985字 | 読了目安: 約12分 | 2026.07.24 | 2026.07.25

〜名刺管理とCRMから始める「脱・依存」の実践録〜

  • 1991年から35年間、あらゆる業務システムを構築してきたFileMakerからの移行を決断した理由。
  • プラットフォームへの依存が奪う「デジタル主権」への危機感と、5年間に及ぶ技術的な葛藤。
  • AIコーディングのブレイクスルーが生んだ「AI名刺管理・CRM」の参照実装を無料公開。

1991年からFileMakerとともに

わたしが初めてFileMakerを触ったのは1991年のことでした。当時、勤めていたソフトハウスでは、ユーザ登録ハガキが届くとFileMakerで作ったユーザーデータベースに情報を登録していました。

ユーザーDBは、高価なCADソフトの権利に関わる記録でもあるため、当時のMacintosh SE/30(9インチの白黒)の小さな画面で、ユーザの所有するバージョンのチェックボックスをオンにする作業は、それなりに神経を使う仕事でした。

当時からMacintoshの使いやすさもあって、FileMakerデータベースは建築家や医師、学術分野など、個人でクリエイティブな仕事をしている人たちの間で、根強い支持を得てきました。

わたしも1991年から35年、パーソナルな住所録や備忘録から顧客の案件まで、実に多様なデータベースをFileMakerで構築してきました。

35年の蜜月、ヤマネ研究から図面管理まで

FileMakerは、極めて柔軟で自由度が高く、使いやすいデータベースを構築できる素晴らしい環境です。実に多様な分野・業種で、多様なデータベースを作りました。

膨大な動画や画像、音声を含むマルチメディアデータベース、仕様DBからCADに連携するハウスメーカー向けのシステム、環境教育の教材評価システム、ヤマネの調査研究支援システム、生花仲卸会社の市況相場価格と連携した花図鑑Webデータベース、図面管理・在庫管理・売上分析、出荷ラベル発行、歯科向けの領収証発行システムといった多様なシステム構築にも適用してきました。

多種多様な業界のドメイン(領域)に深く入り込み、柔軟にシステムを構築する上で、FileMakerはこの上ない、自由度の高さと使いやすさで応えてくれるわたしの大切な道具でした。

一般的にもパーソナルデータベースとして進化してきた使い勝手の良さがじわじわと認知されるにつれ、FileMakerのユーザーも増えていきました。

プラットフォーマーの変節

2019年頃、わたしにとっての転機が訪れます。クライアント・サーバー版FileMaker Serverの性能と安定性が高まり、本格的な業務システムとして、そこそこの規模の顧客への案件にも自信を持って提案できると感じ始めた時期でした。

また、Microsoft Accessは旧ファイル形式の互換性が不十分だったことや、Webアクセスへの技術移行が進まず、「社内LANでしかまともに動かない」という限界に直面して、2015年頃からいわゆる「Access難民」がFileMakerへ流入してきました。自社で手軽に画面を作り、LANの壁を超えてiPadやWebで共有できるFileMakerのシェアが一気に拡大したのです。

わたしも当時、多くのAccessデータベースからの移行支援を手がけ、FileMakerの優位性をあらためて再確認していました。そして、クライアントPCのFileMaker、サーバー版の FileMaker Server、iOS アプリのFileMaker Goという構成は、中小企業の業務を支援する強力なソリューションになりました。

しかし、まさにそのタイミングで、プラットフォームのビジネスモデルがユーザー中心主義から、収益主義へと変節してしまったのです。2016年のFLT(FileMaker for Teams)導入に始まったライセンス体系の転換は、この頃にはデータ転送や同時接続への課金にまで及んでいました

ライセンス料の大幅な値上がりに加え、いわゆるシート課金制が導入されることになってしまいます。最低ユーザー数が5ユーザーからとなり、FileMakerを長年利用してきた個人や小規模な組織を、切り捨てるような価格体系となりました。

ユーザー自身がデータベースを構築できることがFileMakerの強みであり、データベースを構築する人と使う人が分離しない前提でユーザー単位の料金を見れば、決して法外な価格ではありません。

しかし、組織での導入が増えるにつれ、使うだけのユーザーの比率が高まり、どうしても全体で見れば割高になっていきます。使うだけのユーザーも、開発できるユーザーと同一にユーザー数として、カウントされて課金される構造にも違和感を覚えます。

特にわたしが決定的にFileMakerに不信感を抱くきっかけとなったのが、API連携のデータ転送や同時接続数にまで課金する仕組みが導入されたことです。

長年共に歩んできた開発者として、完全にユーザーへの裏切り行為だと感じました。

自社のデータを動かすだけで、プラットフォーマーに税金を払い続けなければならないのか

この衝撃と落胆はわたしにとって、とてつもなく大きなものでした。FileMakerからオープンソースデータベースへの脱出を真剣に検討し始めることになります。この経験が、のちに著書で提唱することになる、データ・コード・システムを自社の意思で扱える状態――「デジタル主権」――の重要性をあらためて認識したきっかけともなりました。

5年間の「悶々とした葛藤」

FileMakerからの脱出を決意したものの、現実はそう簡単ではありません。FileMakerの使いやすさは卓越しており、なかなか離れられなかったのです。

一般的にオープンソースのデータベースソフトは、コマンドラインで操作するもので、開発者にとっても使い勝手の良いものではありません。

しかし、こうした不便や痛みのあるところには必ず対策が出てくるものです。バックエンドのデータ管理において、MySQL WorkBench、NaviCatなどのSQLデータベース管理ソフトが充実してきて、グラフィカルなUIで閲覧、操作が可能になってきました。

もともと、FileMakerのWeb対応が貧弱だった頃は、Webアプリケーション系ではオープンソース系DB(PostgreSQL/MySQL/Sqlite)を使ってきましたから、開発者としての移行はそれほど難しくはありません。

しかし、エンドユーザーに使ってもらうためのフロントエンドの構築、そして、顧客企業の管理者に管理を行ってもらうための管理画面の制作など、総合的な開発の速さと使いやすさを考慮すると、なかなかFileMakerを捨てられません。

「オープンソース系DBに乗り換えたいが、ユーザーの使い勝手(UI/UX)は落とせない」

このジレンマに直面し、ずっと悶々としながら、最適な技術スタックを模索し続けていました。

使いやすさを維持した上で、シート課金の負担を軽減するため、いろいろと工夫もします。

フロントエンドはHTML+CSS+JavaScriptで構築する。Webアプリケーション層はPHPを使ってFileMakerへの接続数を節約する。FileMakerのUIが必須のユーザーと管理者アクセスだけ、FileMakerへダイレクトにアクセスする。

こういった工夫も重ねて、シート課金対象のユーザー数を出来るだけ少なくするといった構成を採用していました。

2026年のブレイクスルー

長い葛藤に終止符を打ったのは、AIコーディングがもたらした技術革新でした。「Next.js + Prisma + PostgreSQL」というオープンソースの技術スタックと、「AIコーディング」の融合によって、ついにブレイクスルーが起きたのです。

HTML+CSS + JavaScript(TypeScript)で自由にレイアウトを構成し、リッチなUI/UXを構築する——これまで最大の障壁だったフロントエンド開発、それなりに職人技的なエンジニアリングが必要だった地道でセンスを要する作業を、AIが支援してくれるようになり、従来では考えられない速さで、高度なUI/UXを構築できるようになりました。

管理画面の使い勝手までも作り込むことが可能になります。人間が業務の文脈(Domain)を定義し、デザイン(Design)を指示すれば、開発(Development)の重労働をAIが担ってくれる。ついに、プラットフォームの制約に縛られることなく、自社でコードを保有・改修できる自由が手に入ったのです。

FileMaker中心の暫定構成から、Next.js・Prisma・PostgreSQLとAIコーディングによる移行後構成への比較図

制約からの解放

このブレイクスルーを経て、エンウィットは現在、自社で長年FileMakerで運用してきた顧客管理、請求書・見積書発行システム、コンテンツ管理など、多様な社内業務システムをオープンソース環境へと移行しています。

その移行プロジェクトの中で生まれたのが、「AIを前提とした名刺管理・CRMシステム」です。FileMakerの制約から解放され、UI/UXの表現力と連携性の自由度も高くなりました。特定の画面で使い勝手を工夫するために思いつくUI/UXは、ほとんど構築が可能となりました。

顧客リストをドラッグ&ドロップで直感的に並べ替える操作、サムネイルのスケーラブルな拡大縮小。そして、読み込ませた画像をAI APIに連携し、文字認識から構造化テキストの統合までを自動で行うシームレスなUI/UXの構築など。

名刺を検索して、訪問先リストを作成する画面。ドラッグアンドドロップで、順序を変更する操作はFileMakerだけでは実現できない。また、この機能では、Google Map のルート検索に連携するようにした。

思いつく機能は、本当に「何でもできる」状態になりました。これが、特定のSaaSやプラットフォームに依存せず、自社でデジタル主権を握ることの真の価値です。

もう一つ、副産物とも言える効果が、スケジュールの自律性です。FileMakerは毎年バージョンが上がっていき、ユーザーにはアップデートという作業が発生します。

バージョンアップの度に、環境とデータをバックアップして、テスト環境を作ってテストする。運用スケジュールもプラットフォーム側の都合につきあわなければなりません。

一方、オープンソースのデータベースはデータを扱うというデータベースの本分において安定しており、枯れた技術です。セキュリティパッチは必要ですが、毎年のように大きなバージョンアップが発生することはありません。

つまり、フロントエンドのUI/UX改善、機能追加という革新性と柔軟性が必要な部分と、長期的に安定していて欲しいデータベース基盤が分離されるわけです。このメリットは計り知れません。

毎年届くバージョンアップのお知らせと請求書に追いたてられることもなく、自社で運用スケジュールをコントロールしやすくなるのです。

さようなら、FileMaker——とその正確な意味

正直に書いておくと、わたしの手元からFileMakerが完全に消えるわけではありません。シングルユーザー版のFileMaker Proは、35年分のデータ資産を読み出し、変換し、新しいシステムへ受け渡すために今後も必要です。

また、Excel、SaaS、基幹システムにデータが分散した現代のIT基盤において、多様なデータの構造を整え、変換し、調整する道具として、FileMakerほど頼れるものは他にありません。わたしは、これからもFileMakerをハブ・コネクタ・コンバーターとして使い続けます。

わたしが別れを告げるのは、道具としてのFileMakerではありません。サーバー版の最低5ユーザーからというシート課金、データ転送量への課金、同時接続への課金——こういった課金体系を強要してくるプラットフォームに、重要な業務のデータを預ける構造からの脱出です。

道具としてのFileMakerは使い続けます。しかし、自社のデータとコードの主権を、FileMakerに託すことはできません。デジタル主権とは道具を捨てることではなく、道具との関係を自分の意思で決められることなのだと、この移行を通じてあらためて確認しました。

FileMaker/Access/Excelからの移行

AIの力でデジタル主権を取り戻し、現場に最適化した、実務で使えるシステムを誰もが構築出来る時代が到来しました。

もしあなたが今、レガシーシステムやSaaSの呪縛に拘束されているなら、AI+OSS(オープンソース)の自由を探求してみませんか?

エンウィットとして、次世代システムへの移行を支援するサービスを用意しました。以下の3つの入口から、お好みのスタイルを選択ください。

【1】まずは実際に触ってみたい方へ

わたしが開発した「名刺管理・CRM」の参照実装を、公開しています。enGeneオンライン会員登録(無料)で、実際のシステムのUI/UX、AIとの連携機能を今すぐお試しいただけます。

参照実装を体験する
※メールアドレス入力だけで簡単にサインアップ

【2】自社の「デジタル主権」の状況を知りたい方へ

あなたの会社のデータやシステムが現在どのような状態にあるか、6つの問いで可視化する「6D戦略クイック診断」を公開しました。登録不要、約3分のワークでレーダーチャートと傾向分析を確認できます。

【3】自社の古いシステムからの脱却を相談したい方へ

「うちのFileMakerやExcelも移行できるか?」「名刺管理だけでなく、独自の業務をAI化したい」といったご相談は、東京・銀座の「enGene Open Lab」にて無料で行っています。参照実装を一緒に動かしながら、具体的な解決策を探りましょう。

名刺管理・CRMについて、実装の詳細は以下の記事で詳細を解説しています。

デジタル主権については、以下の書籍でも考察、提言しています。ご参考まで。

FileMaker の歴史と変遷

主要バージョン・機能 | エンウィットでの開発事例

1. 黎明期〜Windows対応(1980年代〜1990年代前半)

  • 1985年
    Mac用データベースソフト「FileMaker」誕生

  • 1990年
    FileMaker Pro 1.0(Claris社よりMac向けにリリース)。
  • 1992年
    FileMaker Pro 2.0(Windows版が初登場)

    MacとWindowsでほぼ共通の操作性・データ互換性を持ち、「クロスプラットフォームで動くカード型DB」として爆発的に普及。

2. リレーショナル化とサーバー登場(1990年代後半)

  • 1995
    FileMaker Pro 3.0

    単なるカード型から、「リレーショナルデータベース(RDB)」へと進化。複数テーブル間の関連付けが可能に。

  • 1996年:
    FileMaker Pro Server 3.0

    サーバー製品自体はFileMaker Pro 2.0世代(1993年頃)に初登場していたが、リレーショナル化した3.0世代で、複数ユーザーの同時アクセス・共有を支えるバックエンドとして本格化。

    ヤマネの調査研究データベースを構築。CADソフトと連携させて、ホームレンジ算出や行動分析、植生調査のオブジェクトDBと連動させる取り組みにも活用していた。

3. Web公開とDeveloperの時代(1997〜2002)

  • 1997
    FileMaker Pro 4.0(Web Companion登場)

    プラグイン機構とともにWeb Companionが初登場。FileMaker がWebサーバーとして動き、Instant Web PublishingとCDML(Custom Web Publishing)でデータベースのWeb公開が可能になった。

  • 1998年
    FileMaker Developer(ランタイム配布)

    Developer版で、配布無制限のランタイムアプリケーションを作成可能に。同年、Claris社はFileMaker Inc.へ社名を変え、FileMakerに集中する体制へ。

    Developer版のランタイム配布はたいへん優れた機能で、環境教育の教材評価システムを構築して、ランタイム版で先生方に配布した。

  • 1999年
    FileMaker Pro 5.0 / Unlimited

    新ファイル形式 .fp5 へ移行。Web公開特化のUnlimited版が加わり、Web Server ConnectorでApache/IISとも連携。CDMLによる本格的なWebデータベース構築の時代が始まる。

    筆者はこの世代のCDMLで、生花仲卸会社の市況連動型・花図鑑Webデータベースを構築していた。

  • 2002年
    FileMaker Pro 6

    XML入出力に対応した .fp5 世代の完成形。

4. ファイル構造の大改定(2000年代)

  • 2004
    FileMaker Pro 7 / FileMaker Server

    拡張子が .fp5 から .fp7 へ変更。1ファイル内に複数テーブルを保持できるようになり、データベース構築の自由度が飛躍的に向上。

    Webアクセス機能(Instant Web Publishing)が強化。

    建築仕様をデータベースから選択していき、CADと連携させて、3Dモデルのサイズやテクスチャに反映させ、CGとプレゼンボードを自動生成する、ハウスメーカー向けのシステムを構築した。ランタイム版として販売店に配布する仕組みとして構築した。

    この当時は、ランタイム配布機能を活用して、歯科向け領収証発行ソフトを自社製品として販売するビジネスも展開していました。

5. モバイル(iPad/iPhone)革命(2010年代)

  • 2010年
    FileMaker Go 11 for iPad / iPhone

    iPad発売の年に対応アプリ(FileMaker Go)が登場。現場(建設、医療、営業など)に端末を持ち出して直接データを入力・閲覧できる唯一無二の存在として市場を席巻。

  • 2012年
    FileMaker Pro 12 / Server 12

    拡張子が現在の .fmp12 に統一。デザインUI(テーマ・スタイル)が一新。

  • 2013
    FileMaker 13(WebDirectの登場)

    ブラウザ上でデスクトップとほぼ同等の操作感を実現する「FileMaker WebDirect」が登場。

6. チームライセンス・シート課金構造への本格移行(2016年〜2019年)

  • 2016年
    FileMaker 15 シート課金の導入

    ユーザー単位(シート)の年間サブスクリプション「FileMaker Licensing for Teams(FLT)」が導入され、コスト構造の転換点に。

  • 2018年
    FileMaker 17 ユーザーライセンス移行とデータ転送枠

    ライセンス体系がユーザーライセンスへ統合。同時にData APIが正式リリースされ、送信データにユーザーあたり月2GBの転送枠が設定される。「データを動かす量」への課金設計が始まった。

    ちょうどこの頃、顧客向けの案件でFileMakerを本格的に採用し始めた頃。製造業の顧客には数万点の図面管理、売上分析BI、在庫管理、ビジュアル型の加工見積システム、ラベル発行など、基幹システム(ERP)と連携し、補完する多様なソリューションを構築していた。

7. Clarisブランドへの回帰とクラウド時代(2019年〜現在)

  • 2019年
    社名が「FileMaker Inc.」から「Claris International Inc.」へ復帰。

    ユーザー単位(シート)の年間サブスクリプション「FileMaker Licensing for Teams(FLT)」が導入され、コスト構造の転換点に。

  • 2020年以降
    Claris FileMaker 19〜FileMaker 2025

    JavaScriptの組み込み、Core ML(機械学習)連携、API接続が強化される。19以降、製品名は年次表記(FileMaker 2023・2024・2025)へ移行し、毎年の更新が続く体制が現在まで定着している。