AWSの認定から考える技術トレンド

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文字数:9,535字 | 読了目安: 約12分 | 公開日:2019.04.10 | 更新日:2021.03.14

クラウドの代名詞とも言える存在である AWS では、次々にサービス・新機能がリリースされ、こちらが使いこなすより先に次なるサービス・新機能が増えていくという猛烈なスピードで進化しています。

2019年現在、165以上のサービスがリリースされているそうです。わたしが使っているサービスを確認してみたら以下の通りでした。

Route 53 , EC2 , S3 , S3 Glacier , VPC , Elastic Beanstalk , RDS , DynamoDB, IAM , Lamda , SQS, SES, CloudWatch , API Gateway , Elastic Transcoder, CloudFront , Trusted Adviser, Inspector, CloudTrail , GuardDuty, Security HUB , WorkSpaces , WorkDocs など。

約20個ですから使ったこともないサービスが100個以上もあります。

中には衛星を利用する Ground Station とかブロックチェーンサービスの Amazon Managed Blockchain など、あまり縁のなさそうなサービスもありますのですべてを使う必要もないのですが、AWSサービス全体を俯瞰して体系的に理解しておきたいものです。

認定資格は実務に役立つのか

2010年からAWSを利用してきましたが、AWS Partner Network の要件が変更になり認定資格者が必要になったこともあって、遅ればせながら AWSソリューションアーキテクトアソシエイト認定を取得しました。あいまいに理解していた仕様を再確認したり、まったく触らずにいたサービスや機能を確認する良い機会でした。

IT業界に30年近くいると日進月歩のITの世界における資格制度の有効性には懐疑的でしたが、AWSの認定制度はなかなか良い設計になっています。今回は、最近のビジネスで重要な概念であるプラットホーム志向、周辺コミュニティの形成などともあわせて考えてみたいと思います。

テストの概要

試験までの手続きはきわめて合理的でした。模擬試験は3,240円でオンライン受講することが出来て、本番と同じテスト環境を確認することが出来ます。本番のテストは受講料16,200円を事前にカード決済しておき、身分証明書持参で試験センターで受験します。

試験の運用業務は外部のPSI という会社に委託されていて、試験センターが各地にあります。弊社の銀座オフィスからも近い東銀座の歌舞伎座タワーを受験会場として選択しました。余談ですが、試験会場は歌舞伎座タワー5Fの歌舞伎グッズストアの隣です。

我が社は生きものグッズやアプリを企画制作していることもあり、試験前だというのに歌舞伎グッズもチェックしてしまいました。地下には歌舞伎をモチーフとしたグッズや江戸の伝統工芸品などを販売する小さいお店が並んでいて、コンテンツの展開活用事例としても参考になります。

さて、試験の方はというと会場にはPCが並んでいて、身分証を受付に提示後、ロッカーにスマホや荷物を預けます。指定されたPCでログインして画面に表示される設問に回答していきます。

模擬試験では正しい回答が選択可能な数しかないのですが、本番テストでは正しい回答が複数あり、より適した回答を選択するべき設問があるなど、ちゃんと考えないと間違えそうな設計になっています。

130分間で65問のテストに回答しますので、意外と時間がありません。しかし、キーワードだけで反射的に選択枝を選ぶようなことをすると失点しまいますので注意が必要です。何とか時間内に回答を一通り見直してオンラインで回答を完了すると、Congratulation …….  と、いきなり合格判定が表示されてびっくりしました。

プラットホーム志向と資格制度・コミュニティの形成

10年近くAWSを実務で使ってきてそれなりに自信もあったので、試験対策本を1冊読んだ程度で望みましたが、無事に合格することができました。何せ、AWSはサービスや機能の追加・更新スピードが速いので、常に最新情報をアップデートしておく必要があります。今回の認定も有効期間は3年で再試験があり、更新することになります。

今回の認定取得にあたって、あらためて AWSの設計思想やサービスを俯瞰してみると、その意義を再認識させられます。AWS の活用については以下の記事で詳しく書きましたが、ここでは資格認定とからめてコミュニティやプラットホームのお話をしておきましょう。

Amazonは敵か味方か

わたしは出版社とのつきあいもあるし、Amazon マーケットプレイスに出店もしているので、立場によってはAmazon に不満を感じることも少なくないのですが、AWS は社会全体にたいへん良い影響を与えるサービスだと感じています。

サーバーやデータセンターに多額の投資をすることが出来ない、中小零細企業、スタートップ企業でも、大手企業と互角に戦える可能性を与えてくれる力強い味方です。

資本主義は、どうしても規模の論理が横行してしまいやすくて、大手資本を持つ企業が有利になってしまいます。しかし、AWSを活用すれば小さくサービスを始めることが出来るので、コアの技術やアイディアさえ持っていれば、大手企業が参入してくる前や大手企業が入ってこれない小さな市場で、活躍できる可能性が高まります。

また、AWS本体も、APN(Amazon Partner Network)というパートナー制度、コワーキングスペースの AWS Loft Tokyo の運営、AWS を利用するユーザーグループのコミュニティ形成とその支援なども積極的にやっておられます。

新しい企業やチャレンジを応援していて、AWS周辺に良い文化が育まれています。我が社もAPNのテクノロジーパートナーセレクトに認定していただいてAWSの活用に取り組んでいます。

コミュニティのライフサイクル

ただ、こうした良い雰囲気は新しい企業や技術の勃興期の特徴でもあり、一定程度普及が進むとビジネスや規模が優先されて、革新性・オープン性・活力が失われていきます。

他社の事例などから考えてみましょう。Microsoftの場合、IEをごり押してサードパーティ製ブラウザのNetscapeをつぶした頃からおかしくなったような気がします。

当時は、IEの独善的な仕様によく悩まされましたし、マイクロソフトがインターネットの主導権と利権をわが物にしようとしすぎたことで、プラットフォームとしての魅力を毀損したように思います。

AppleもiOSの普及が進むにつれ、自社サービスへの囲い込み、自社アプリ優先で独善的に運用される App Store、サードパーティとの対立も目立つなど、自己中心的で閉鎖的なところもありますので、先行きを懸念しています。

iMac 以前はエヴァンジェリストと呼ばれる、個人的にもAppleが好きで技術的にも高いレベルを持った人間が販売店やデベロッパーにいて、初期のAppleはそうした個人とコミュニティに支えられていました。

ぼくが Apple の販売店やソフトハウスに勤めていた1990年代はAppleものどかなところがあって、関係者割引みたいな形で当時80万円近くしたSE/30を半額ぐらいで購入出来た時代がありました。

個人で身銭も切って勉強したけど、Appleやコミュニティが相互に支えあっていた古き良き時代でもあります。MacおたくとかMac信者とか、よく揶揄されたものです。

しかし、iMacの登場ぐらいから規模が優先されて、2000年代初頭には中小規模の販売店を中心に販売店が大幅に整理されました。最近では Apple Store のスタッフも会社員っぽいと言いますか、昔Macを扱っていた人たちのようなギークっぽさはなくなりました。

Apple のプラットフォームとコミュニティ

iPhone の登場から10年を経てアプリの大規模化も進み、開発者が個人レベルで活躍出来る場も少なくなりました。これはまた別の機会に取り上げたいと思いますが、最近のAppleはハードウェアのデザインの劣化とともに、特にiOS7以降のフラットデザイン志向になってからのUI=ユーザーインターフェースの劣化が酷く、30年近く、Appleの設計思想を見てきた身としては目を覆いたくなる現状です。

何でもスティーブ・ジョブズのいた時代が良かったかのように言う風潮も好きではありませんが、古くからのAppleユーザーとしては昨今のAppleは残念な印象もあります。

一方で、こういったことをもって、Appleがオワコンだとか言う人も、Appleの強みを理解していません。クリエイティブ系を中心に多様な業界にパワーユーザーがいますし、iOS以降、Macを使う開発者も増えています。

iOS / macOS / watchOS というOSをハードウェア、ソフトウェア、サービス、ストアと綿密に連携させて提供しているAppleの強みと競争力はそう簡単に失われるものではありません。逆にハードウェアとしてのスマホの進化が行き着いた感のあるこれからこそ、Appleの強みが発揮されるはずです。

ぼくとしては、恋愛の時期を過ぎた夫婦みたいなものでしょうか。Appleにときめかなくなったけど、もはや空気みたいなもので、Appleのない生活もビジネスも考えられません。

重要なのは多様性と活力

最近のAppleで好ましいなと思うことの一つにWWDCを見ていても女性の発表者が増えるなど、Apple社内でダイバーシティが進んでいるように見えることです。こうした傾向がサードパーティや販売店を含めた、Apple 周辺の多様性やコミュニティ形成にも活かされてくると良いのですが・・・。

しかし、社外に目を向けると、ハードウェアやOSレベルでの開発が開放されているとは言えず、逆に Apple の孤高ぶりというか、多様性やダイナミズムが失わていることが懸念されます。セキュリティ確保のために仕方ない面もあるとは言え、どうしても排他的な仕様が目についてしまいます。

ビジネス市場でのAppleの位置

Appleがエンタープライズ事業の推進で、IBMとの提携を発表したのが2014年。その後、SAPやCISCOとの提携も拡大しています。セキュリティを高めることで、よりインフラ的なデバイスとして使われていくのならそれはそれで悪くない方向です。

iPhone でも iPad でも旧型の部品で堅実な価格帯に製品展開しているのは、ビジネス利用の広がりを期待してのことかもしれません。いっそのこと、カメラもない質実剛健で安価なデバイスをだしてくれれば、ビジネス用途で活用シーンも広がりそうなんですけどね。

昔から Mac は価格が高いことが企業への導入を阻む大きな要因の一つでした。いまでも安価なWindowsマシンと比較すれば割高ですが、セキュリティやサポート運用などのトータルコストで見れば十分リーズナブルになりました。

後はエンドユーザーの教育コストがネックですが、Windows 7 → Windows 10 との比較で言えば、 Windows 7 → macOSでもたいした変わらないような気もします。

2020年には Windows 7 のサポートが終了しますので、ビジネス市場でも Mac ユーザーが少しは増えるのかもしれません。OS 側での Apple / Google / Microsoft の覇権争いがあり、クラウド側では AWS / Google GCP / Microsoft Azure / IBM Bluemix の競争です。中長期の動向を俯瞰してみると、やはりAppleとAWSの優位性が見えてきます。

プラットフォームの選び方・つきあい方

会社としてはもちろん、いちユーザーとして、いち技術者として、どのプラットホームを選ぶかは、自身の興隆をも左右しかねない重要な命題です。

デスクトップOSの場合

Windows 全盛時から Appleを選択してきたので、長年、憂き目にあってきましたが、iOS 以降少しは盛り返しました。macOS はまだまだ劣勢ですが、iOS のアプリを macOS に移植しやすくする Catalyst など、Apple も iOS の優位性を macOS に活用しようとしています。

比較的、安価な価格帯にMacもiPadも供給していますから、価格面ではまぁまぁこの位で良いでしょう。iPhone はもう少し安価な価格帯に用意してほしいですが。それよりも、ハードウェアからみのドライバがないことが致命的です。どうしても、Windows から離れられません。

我が社でも、ファブ関連のデジタル工作機器、レーザー加工機、CNC、UVプリンタ、昇華転写用プリンタ等で、Mac用のドライバがないために、仕方なく Windows を利用しています。また、計測機器関連のシステム開発案件でも、データロガーなどが Mac に対応しておらず、仕方なく Windows を利用しています。

先日もデータロガーを利用する案件のため、Windows でシステムを開発する羽目になってしまいました。UIはHTML5(JavaScript + CSS)で書いて、Microsoft Edge ベースの WebView をいわゆる UWP アプリとして Visual Studio で統合出来たので、ほとんど、Mac上で開発出来ましたが・・・。

モバイルデバイスの場合

システム開発の視点では、Androidは微妙な状況です。我が社でリリースしている野鳥の鳴き声図鑑も Android 版をリリースしていますが、OSのバージョンも機種も多すぎて、メンテナンスしきれません。正直、大赤字のアプリなのですが、野鳥は好きなコンテンツであり、ユーザーの方には喜んでいただいているので何とか続けています。

Java は比較的慣れている言語だし、その昔 Sun Microsystems が出していた J2ME マシンの SunSPOTというデバイスでシステムを組んだこともあるので、Javaが使える組み込み用 Android には着目していたのですが、これもいまいち普及しませんでした。各種センサーを活用しようと思ったら、ハードウェアも言語も選択枝が多いArduino や Raspberry PI を選定しています。

セキュリティや運用の効率性からも、スマホやタブレットといったモバイルデバイスのプラットホームは、iOSが中心です。しかし、ハードウェアやセンサーを統合しようと思ったら、iOS では出来ることが限定されるので、ArduinoやRaspberry PI の出番になって、ここでもデスクトップOSと同じ状況です。

ここにmacOS とiOS の弱点があります。Appleも何らかの形でオープンな仕様のOSなりデバイスのラインアップを考えても良さそうなものです。AppStoreでアプリ開発をサードパーティに開放したことが、iOS の成功を生んだわけですから、ハードウェアのオープン化のようなことが出来て、Mac/iPhone/iPad の周辺機器ビジネスが活性化すれば、さらに、Appleプラットフォームとコミュニティが面白いことになりそうなのですが。

データベースの場合

MySQLもOracleに買収されて、先行きが怪しくなってきましたので、AWS MariaDB や Aurora に軸足を移していく予定です。JavaもOracleになってからいろいろと使いにくくなりました。

FileMaker もここ数年でようやく本格的に使えるレベルになってきたと思ったら、値上げが続いた上にデータAPIへの従量課金や複雑なライセンス体系が導入されるなど、利益を優先している感が強まってきて、30年近く使ってきたユーザーとしては何とも残念な気分です。特に納得いかないのが、データAPIへの従量課金です。我が社では、FileMaker をバックエンドにも使っていく方針を変更して、FileMaker への依存度を下げる予定です。

クラウドの場合

そして、クラウドです。MS Azure や IBM Bluemix も使ってみましたが、機能分離がされていないまま、多数のサービスがあって何とも使いにくい印象でした。Google GCP / Microsoft Azure / IBM Softlayer など、ごく初期の頃に試したこともありますが、わざわざ使う意義を見いだせませんでした。

Microsoft Azure は Active Directory 統合を始めとしたオンプレミスのネットワーク、MS Office、 OneDriveなど、Microsoft の一連のサービスとの連携性において、Google GCPはGmailやGoogle Drive といった各社のサービスと統合したいシステムでは使いたい場面も出てくるかもしれないので、ウォッチは続けています。

現時点でのプラットホーム選択

我が社としては、クラウドはAWS、スマホ/タブレットは Apple 、PC は Mac 優先で、ハードがらみの場合はWindows、フロントエンドデータベースは FileMaker、バックエンドはMySQL/AWS RDS、IoTエッジとしてはArduino (ESP32)、IoTゲートウェイに Raspberry PI といった構成を中心にITソリューションを構築していく方針です。 

技術上の差別化はもちろんですが、プラットフォームの運営側が利益優先に走るか、コミュニティを優先して全体を活性化させようとしているか、プラットフォームの選択は重要な分岐点となる可能性があります。

AWS もいろいろな状況を俯瞰して見ると、いまはオンプレミスのハードウェアやシステムをリプレースをするため積極果敢に攻めていますが、今後、3〜5年で潮目が変わりそうです。当面、クラウド市場はAWS一人勝ちで、汎用的で大きな市場はAWS に先行して取り組んだベンダーによる寡占化が進み、ニッチで特化された市場も中小零細ベンダーがそれぞれにおさえることになるでしょう。

クラウド導入がある程度、一巡した感が出た頃が心配されます。サービス開始から数十回の値下げをしてきたAWSが値上げするような時代が来ないことを願います。

その頃になっても、AWSクラウドの技術の重要性は変わりありませんが、IT 企業として活躍する場よりはユーザー企業の事業により踏み込む必要が高まりそうです。ユーザー企業側でもIT人材を処遇し、ITの内製化も進むでしょう。

おそらく、IT 技術だけでは付加価値の創出や差別化が難しくなると予想しています。AWS クウラドの進化・高度化はまだまだ続きますので、最新の技術動向を捕捉しておくことも重要ですが、IT 技術と専門性を融合する分野を見つけておくことも重要になりそうです。

ちなみに2019年時点では、AWS APN パートナーセレクトになると、年会費として支払う$2,500以上のAWS利用料チケット$3,500が付与されるなど太っ腹な支援もあるので、チケットを活用して新しい技術やサービスを試してみたいと思います。

APNパートナー向けのセミナー優待などもあるので積極的に活用して技術レベルも高めていくつもりです。

ということで、ちょっとAWSにときめいている状況のご報告でした。6月12日〜16日はAWS Summit Tokyo もありますので、AWS の最新動向に Deep Dive しておくといたしましょう。

※Deep Dive は、AWSのセミナーでテーマを深掘りするセッションに使われる用語です。

参考書籍

AWSソリューションアーキテクト認定の取得を考えている方へ
AWS公式のオフラインのセミナーを受講出来ると良いのですが7万円/日で3日間ですので、受講出来るのは大手企業などで時間と予算に余裕がある人に限られるかもしれません。

資格取得の目的にもよりますが、充実しているAWS公式ドキュメントやオンラインの学習リソースも活用して実際に各サービスを使ってみる方が良いように思います。

何しろサービスの追加や仕様改善の変化が激しいので書籍を活用出来る範囲も限定的になりますが、概念や全体を俯瞰するには書籍の方が適している面もあります。書籍では、以下の4冊あたりがお勧めです。

9年間に渡ってAWSを利用してきたので実務的にはわかっているつもりでしたが、試験対策としての知識はまた別ですのでこの本でチェックしました。上述した通り、実際のテストの設問は本書のものより複雑でしたが、試験対策としての要点がおさえられていて参考になりました。

ぼくの受験時より後にリリースされた書籍ですが、全体像を把握する上で情報の整理が適格です。単なる試験対策にとどまらず、実務に適用することへの配慮も感じられて好印象です。

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