野生動物に学ぶ生き方と戦略:フクロウ編

Life
Ural Owl hidden in a tree hole looking out curiously - National Park Bavarian Forest - Germany
文字数:6,732字 | 読了目安: 約9分 | 公開日:2021.03.20 | 更新日:2023.01.24

野生動物に学ぶ生き方と戦略、今回は猛禽類のフクロウについて考えてみましょう。

肉食で生態系の上位に位置する猛禽類は、生息環境に適応した生態をもち、独自の生存戦略を内在しています。弱肉強食の世界観では強者ですが、生息環境への依存度が高いという意味では、弱者としての一面も持っています。実際、フクロウの営巣場所となる大木の樹洞の減小、餌資源の減小などにより、絶滅が危惧されている地域や種も存在しており、脆弱な基盤の上に成立している存在と言えます。

猛禽類の生息環境と生態、生存戦略、人間との関わりや文化的側面を知ることは、我々人間の生き方、ビジネスの戦略を考える上でも多いに役立つはずです。

〜智慧、目に見えない力を操る魔術のシンボル〜

A close-up shot of a Great Gray Ural owl perches inside a tree-hole in Hokkaido, Japan

智慧の象徴

古来、智慧の象徴として知られる梟。角帽をかぶりメガネをかけた博士風のイラストで可愛らしくデフォルメされることも多く、日本では不苦労や福来朗のような字をあてて縁起ものとしても人気のあるキャラクターです。

大ヒットした映画ハリー・ポッターで魔術師たちの相棒としてフクロウが登場したこともあり、世界的に親近感を持つ人が増えました。日本でも、フクロウカフェの普及や YouTube で増えたフクロウ動画の影響もあり、ますます身近なかわいい生きものとしてイメージする人が増えています。

しかし、フクロウは本来、夜行性で小動物を襲い狩りを行う猛禽類であり、世界の歴史を見ても、畏怖すべきもの、霊的なもの、神秘的な生きものとして認知されていた時代や地域もありました。

神話における位置付け

ギリシャ神話では、知恵・芸術・工芸を司る女神アテネの聖なる象徴としてフクロウが描かれています。アテネは城塞都市の守護神でもあり、兜をかぶり、盾と槍を持った姿で描かれるなど、戦略を司る武神としての一面も持っています。

知的な戦略、知恵とともに闘う強さ、神秘的で不思議な力を合わせ持つ、フクロウのイメージと女神が重なります。

画像は紀元前5世紀のアンティークコイン「アテネのフクロウ」。

このフクロウは、Little Owl (和名:コキンメフクロウ、学名:Athene noctua)とされており、Atheneは小型フクロウの学名にもなっている。

ドイツの哲学者ヘーゲルが「法の哲学」の序文で語った有名な言葉に「ミネルヴァの梟は黄昏に飛び立つ」があります。ミネルヴァは、ローマ神話におけるアテネのような存在で、知恵を司る女神です。ミネルヴァのシンボルもフクロウであり、一緒に描かれたり、彫像に彫られています。

ヘーゲルの表現は難解なことで知られ、この言葉の意味も様々に解釈されていますが、一義的には以下のように考えることが出来るでしょう。

哲学は、行動し実践されつくした後に、概念化され、体系化されるものである。

哲学は後付けで役に立たない、というように捉えることも出来ますが、知識や知恵を体得した上で飛び立つ。つまり次の行動と実践に向かう。と考えることも出来ます。

このブログがコンセプトとしている、「行動するために思考する」にも通ずる概念です。行動するためには、膨大な知識、深い思考に裏付けされた洞察と知恵、哲学と直観に裏付けされた自信が必要です。

どうしても、思考型の人は行動が足りなくなります。一方、行動型の人は思考が不足しがちです。思考→(直観・決断)→行動のサイクルを回転させることが重要です。

知識と知恵を駆使して熟考し、決断して飛び立つ。

イメージを活用する

古来、人間はシンボルやアイコンを意識の操作に利用してきました。思考と行動、知恵と武力のバランスを常に意識するため、象徴としてのフクロウを絵画や彫像のかたちで身近に置いてきたと考えられます

そして、神話に多く見られる特徴ですが、ミネルヴァも時代や地域により、多様な概念と信仰がおりまざります。学業や医療、職工を司る神として認知されている地域や時代もあるようです。どの分野においても、ことを成すには知恵が欠かせないものと考えられてきた表れと言えるでしょう。

いずれにしろ、ギリシャ・ローマ時代の神話、ドイツ哲学、現代のハリー・ポッターまで、フクロウは神秘的な力と知恵の象徴として、人々に親しまれてきたのです。

不思議な生態

人間がフクロウに抱くイメージはどのように形成されてきたのでしょうか。独特の能力を持つフクロウの生態を見てみましょう。

優れた視覚と聴覚

フクロウの特徴である大きな眼は、夜の暗い森の中でも獲物を見つけられるように進化しました。人間の35倍の感度でわずかな光も捉えられ、体重比で他の鳥類の2倍もの大きさになります。しかし、闇の中でも小動物の動きを見逃さないように前方に集中してきたからか、光を多く取り込めるような円錐状になっている眼球はほとんど動きません。

何らかの能力を獲得すれば、別の能力を失う側面もあります。フクロウ類の視野は狭く(110度)、眼球も動かないことから、補完するために首が異様なほど良く回ります。トラフズクでは、270度以上も回転するとか。(出典:ハイモ・ミッコラ 世界のフクロウ全種図鑑

人間から見ると、その大きな瞳と首をひょこひょこ動かすしぐさの可愛らしさがフクロウの魅力の一つでもあります。同時に、首を頻繁に動かして獲物を捉えようと集中している姿が、対象を良く観察して行動することの大切さを教えてくれます。

良く回る首〜首を回そう〜

話が少し脱線しますが、パソコンとスマホへの依存度が高まる現代社会では、首が緊張して固定されることで、首肩回りの筋肉がガチガチに固まっている人が増えています。筋肉が固くなるにつれて脳への血流も減り、思考能力も衰えてしまいます。

ちなみに昔から「借金で首が回らねぇ」という慣用句が使われてきていることから、ぐるんぐるん首が回るフクロウは、商売人にとっての縁起物として位置づけられてきました。“不苦労”という当て字もそうですが、日本人はこの手の言葉による験担ぎが好きですね。

実際、ストレスで首肩が緊張する→脳への血流が減る→思考能力が衰える→仕事がうまくいかない→経済的に困窮する→借入金が増える→ストレスが増える→首が回らねぇ!、という負の循環になってしまいやすいものです。

本ブログも比較的長い記事が多いですから、適度に首肩を回して深呼吸してからリラックスしてお読みいただければと思います。肩を上げ下げしたり、肩甲骨の位置を意識しながら前後に回すと首まわりが楽になりますね。脱線しましたが話を生態に戻して、ここでは機能や構造から学べることを考えてみましょう。

思考から行動へ

視野が狭いと左右の両眼視差も少ないので距離感が把握しにくくなります。それを補うように、フクロウは聴覚についても独自の機能を獲得しています。耳は目の横あたりに左右で異なる位置に付いており、形状も異なっています。聴覚を空間的にマッピングする脳細胞の数も多く、聴覚から獲物までの距離を三次元的に把握できるようになっています。

暗闇で優れた視覚・聴覚を駆使して、ハタネズミ等の獲物の行動を把握し、時間と空間、間合い、飛翔の角度や速度、多様な条件を勘案して、一気に襲いかかるのです。

これらの生態からは以下の教訓が学べるでしょう。

状況を詳細に把握して、戦略を練り、勝機を見て一気に行動せよ

近年のビジネス界では、PDCA = Plan – Do – Check – Action をいかに速く回すかが勝負だと言われています。しかし、ビジネスの最前線では、さらに機動性が求められており、注目されている概念が OODA ループです。

OODA は戦闘機の能力を、操縦士を含めた総合性能として比較する軍事的研究において導出された概念です。総合的に監視して(Observation)、時空間の情勢を見極め(Orientation)、意思決定して(Decidion)、行動する(Action)という段階で分析します。

スピードが重視されるビジネス界でも、迅速な意思決定が重視されるようになり、OODA ループの考え方が注目されています。もはや、計画変更には稟議決済が必要とか、交渉の場で「持ち帰って検討させていただきます」とか、いつまでも検討・注視しているばかりで意志決定出来ない組織とか、日本企業にありがちな悠長なことをやっていられる時代ではなくなりました。

机上の空論、実体と乖離した理想論で言葉遊びをしている学者や官僚も、もはや実ビジネスの現場では使いものにならないのです。まさに闇夜で狩りに臨むフクロウのように、少ない情報を最大限の集中力と感度で収集して、一瞬で決断する力と胆力が求められています。

OODAループやビジネスにおける意志決定については、以前の記事にも書きました。本記事の最下部にリンクを置いておきます。ご参考まで。

進化と機能獲得

もともと、フクロウが森に入り夜行性になったのは、他の鷲鷹との生存競争に敗れたことが要因の一つと言われています。ある市場の競争が激しかったために、別の市場を求めたわけですね。しかし、異なる環境で勝負するには従来とは異なる機能と戦略が必要です。

フクロウは、新しい環境で生きていくために、自らを変化させたわけです。長い進化の中である能力を獲得し、ある能力を失っていきながら、夜の森での狩りに最適化して生存してきました。

ビジネス市場戦略の研究の一つにブルーオーシャン戦略があります。既存の市場は、競合がひしめいており、値下げ争いや広告キャンペーン合戦が繰り広げられます。シェアを奪いあう争いは過酷なレッドオーシャンです。

一方、ブルーオーシャンは誰もいない大海原へこぎ出し、新しい市場を開拓して、オンリーワンを目指そうという戦略です。フクロウの場合は、いわば ダークフォレスト戦略 ですね。他の強者がいない夜の森に、活路を見いだしたわけです。

全世界268種のフクロウのうち約3分の2が夜行性であり、夜の森に特化した能力、生態を進化させながら、独自の繁栄を遂げてきました。

デメリットを恐れず、ニッチな環境と目的に特化した能力を最適化せよ

独特な羽の構造

フクロウの羽にも独特な知恵が活かされています。獲物に気付かれずに襲いかかれるように、風切り音が少ない特殊な構造を持っています。ギザギザの突起が付いていることで空気の流れが整えられ、羽音が小さく羽ばたくことが出来るのです。この構造を知った鉄道技術者が、新幹線のパンタグラフの設計に応用して、騒音を大幅に軽減したことが知られています。

こうした自然界や生きものの生態、形態、構造をまねして、工学的に活用する手法が、バイオミミクリーです。フクロウの羽根以外にも、以下のような例が知られています。

  • イルカのひれ = 洗濯機のスクリュー
  • ヤモリの足の微細な毛 => 着きやすくはがしやすい吸着テープ
  • 蓮の葉の表面の微細な産毛 => 撥水構造
  • サメの皮膚の尖った微細な鱗 => 抵抗の少ない競泳用水着

バイオミミクリー、生物模倣については、たいへん興味深い分野ですので、別の機会にも取り上げたいと思います。

多様なフクロウ

フクロウは、暗闇を見通す目、僅かな音も聞きもらさない耳、静音構造の羽根、人に愛される豊かな表情と仕草、多様で奥深い魅力的な生きものです。世界では268種が確認されていて、コキンメフクロウのように21〜23cm程度の小型のものから体長75cmのワシミミズクまで、多様な種がいます。

フクロウの目は前方にあり、人のように表情が豊かに見えます。顔がお面のように見えることから、メンフクロウと呼ばれる種もいます。また、ミミズクの仲間では、耳のように見える羽角が特徴的です。

羽角の役割は良くわかっていませんが、お互いを識別するため、捕食者であるネコ科の顔に似せることによる擬態効果などと考えられています。トラフズクは、大きな羽角を持っており、英名は Long eared owl と呼ばれています。

ハリーポッターに登場して有名になったシロフクロウは、英名 Snowy Owl で北極圏に生息する白色の美しい鳥です。

ワシミミズク
Eurasian Eagle Owl
Bubo bubo

フクロウ
Ural Owl
Strix uralensis

コキンメフクロウ
Little Owl
Athene noctua

シロフクロウ
Snowy owl
Bubo scandiacus

トラフズク
Long Eared Owl
Asio otus

メンフクロウ
Barm owl
Tyto alba

日本にも九州から北海道まで生息している、標準的な種がフクロウ( Ural Owl , Strix uralensis) です。東は日本列島からユーラシア大陸、北欧スカンジナビア半島まで、広い範囲に分布しています。

フクロウ( Ural Owl , Strix uralensisのイラストをエッチング(電解マーキング)したステンレス製マグボトル

2014年、国際鳥類学会議IOCが立教大学で開催されました。わが社もグッズのブース出展で参加しました。日本が誇る動物画家薮内正幸さんのイラストによるグッズは海外の研究者の方にも好評で、北欧で40年フクロウの研究をしている方にも評価していただきました。国は違えど同じ生きものが生息していて、その魅力を共有できたことは素晴らしい体験でした。

身近なフクロウ

わが社のある八ヶ岳南麓は野鳥の宝庫として知られており、フクロウの生息地でもあります。山梨県北杜市はフクロウを市の鳥に指定しています。うちのオフィスは小淵沢の牧草地と林の境界に位置していて、冬から春にかけて家の近くでもフクロウの声が良く聞こえます。

「ホゥ、グゥオッホ、ウォッホウ」

夜行性のわたしはこのブログも夜中に書いていることが多いのですが、フクロウのこの声を聞いた日は文章が冴え渡るような気も・・・。

フクロウがいるということは、彼らを養えるだけの餌資源(野ねずみなどの小動物)が十分にあり、野ねずみが十分に繁殖できるだけの木の実が繁茂しており、植物が成長できる土壌、豊かな生態系があるということです。実はこういうことこそが、人間の安心安全の基盤であり、創造性の源でもあります。

現代は  IT やテック企業を中心に世の中が動くようになり、合理的であることが優先されすぎ、文化や教育、自然であること、経済的な価値に換算出来ないものが軽視されがちです。社会が合理性だけで運営されると、世の中は荒んでいくことでしょう。

~自然や生きものを愛する~、〜自然や生きものの知性に学ぶ〜、そんな文化が広まっていくよう願っています。

参考書籍と関連グッズ

動物画家・薮内正幸さんのイラストを中心に、いきものの細密画をデザインしたグッズを企画・製作・販売しています。スマホカバー/革製品/金属小物/Tシャツ/トートバッグ/文具などから、お気に入りのフクロウグッズを見つけてください。

いきもの細密画アートグッズ 公式ストアで フクロウグッズの一覧を表示

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