エンジニアのスキル管理を考える

IT
文字数:5,543字 | 読了目安: 約7分 | 公開日:2019.06.21 | 更新日:2019.06.15

AWS Summit Tokyo 2019 に行ってきました。昨年までは品川の高輪プリンスで一部の会場は人がごった返すほどで危険な状態でしたが、今年は規模を拡大して幕張メッセが会場です。さすがに広々しています。

今回は、展示会の様子などからAWSクラウド周辺の状況、リアルな場の持つ価値、エンジニアにとっての最新技術とのつきあい方、スキル管理などについて考えてみます。

AWSの勢い

インターロップが隣の会場で開催されていたこともありますが、全体として人も増えて活気にあふれています。ブースも華やかになり、一部ではお姉さまがたがノベリティを配るなど、いかにも日本の展示会的なところも増えてきました。

ブースの説明員に何か技術的なことを聞いても型通りのことしか答えられない人も増え、普及期に入ってきたなという感じです。残念ながら個別には質の低下を感じる機会も少なくありません。

全体としては勢いがありますし、AWS本体も相当に人材募集をかけて人員増強をしているようです。まだまだ、クラウドNG のところも多いと思いますが、個別の案件や試験的な規模では導入に踏み切るところもかなり増えていて、この流れは加速しそうです。

今回の特徴は機械学習

今回の AWS Summit Tokyo 2019 の特徴は機械学習系のセッションが多かったことです。実際、機械学習のプラットホームとなる SageMaker は興味深いものてした。Caffe 、Keras、Tensol Flow など、機械学習フレームワークには多様な実装があってそれぞれの環境を構築してテストするだけでも一苦労です。

SageMaker を使えば少なくとも、学習用データの管理、画像の分類やタグ付けなど、アノテーション作業を共通化出来るようです。

しかも、SageMaker Neo を使うと学習させたモデルを Raspberry PI で走らせることも出来るとのことで、一気にやる気が出てきました。

機械学習モデルのリファレンス実装として Deep Lens も発売されるとのことで、早速、注文しました。届き次第、実験してレポートします。

展示会の意義

深層学習モデルをダウンロードして走らせることが出来る Deep Racer で、各自が学習させたモデルの優劣を競う大会も開催されていて、リアルな場でのイベントとしての演出に一役買っていました。

全体としては、従来のエンジニアやコアなユーザーの集まり的な雰囲気から、エンドユーザーとベンダー・デベロッパーの出会いの場へと広がってきています。

思えば、1996 年を最後に MacWorld が開催されなくなり、個人的にもインターネットの時代に展示会なんて時代遅れだなと思っていた時期もありますが、やはり、新しい技術や市場が生まれるときには、リアルな場を共有することの価値は大きいなと思います。

ここ十年ぐらいで参加した展示会・イベントをざっと思いだしてみると、以下のようなものでした。

Adobe MAX / FileMaker カンファレンス / Google I/O / MCFrame Day / Maker Faire / ギフトショー / OGBS(オーダーグッズビジネスショー) / 計測機器展 / メンテナンス・レジリエンス展 / 高機能金属展 / テクニカルショー

自分が馴染みのない業界を俯瞰したい場合など、展示会の意義は依然として小さくありません。ただ、幕張メッセはもちろん、近場の東京ビッグサイトでも、半日から1日はつぶれてしまいます。イベントの中には惰性で開催されているものもありますから、見極めることも重要です。

リアルな場から得られるもの

ググればたいていのことは調べられる時代ですが、たまに視野の拡大というか、視点の移動みたいなことをしておくことも必要です。あるトレンドの熱量みたいなものを感じたり、思いがけない発見もあります。

リアルな場として、セミナーなども定期的に受講するようにしています。著名人の書籍を読む場合も、リアルな場で一度でも著者に会っておくと、本に書かれていることから得られる情報量や臨場感が全然違います。

Apple の開発者会議 WWDCは抽選制になってしまって、2009年以来行っていませんが、現地を体験していると雰囲気もわかります。特に WWDC はセッションの動画がすぐに公開されるようになったので、あまり行く必要も感じなくなりました。

AWS では最新の動向が発表される re:invent が毎年、ハリウッドで開催されているので一度、参加してみたいと思っています。来年、日本で行われる AWS Summit 2020 の会場はパシフィコ横浜です。ここ数年はAWSの動向からは目を離せませんので、AWS 関連のイベントには参加することになりそうです。

リアルな場から得られるものは少なくありません。インターネットをフル活用した上で、リアルの書店・図書館、イベント・展示会、セミナーも活用すると、相互作用というか、情報を頭と体に染み込ませることができます。

俯瞰する視点

新しさや進化は必要なのですが、俯瞰する視点も重要です。特に IT 業界は競争と変化が激しく、常に革新性や成長性の高いビジネスモデルを求められるため、どうしても派手な機能やユーザーの利用実態からかけはなれた未来すぎるビジョンでドライブされてしまいがちです。

わたしはソフトハウスに勤めていた25年前頃から、IT 分野の速すぎる変化に違和感を持っていました。当時は、米国製CADソフトのローカライズを担当しており、革新的な新機能を喧伝し、バージョンアップを推進する立場にいたわけですが、あるときから毎年のように繰り返される行事に疑問を持ちました。当時でさえ、新機能を紹介しながら、ユーザーはこんな新機能を求めていないんだけどなぁと思う機会が結構ありました。

長年 IT 業界にいると、華々しく喧伝された技術が競争に敗れたり自滅して、どこかに消えてしまう現象を何度も見てきました。Apple だけみても OpenDoc , Copland , Newton , WebObjects など、いまはなき技術がたくさんあります。わたしもどんだけ振り回されてきたことか・・・。

PDA の走りとも言える Palm / MagicCap 、SunMicroSystems のネットワークコンピュータ、シンクライアントなど、当時のコンセプトが魅力的だっただけに、ビジネスの成功と技術の興隆が必ずしも一致しないことに理不尽さを感じることもあります。

どこにコミットするか

いち技術者としてどの技術にコミットするかは、ビジネス上の長期的展望と本質的な価値など、複合的な要因によって決定されます。考えてもわかるものでもないですが、たまには客観的に俯瞰して見る機会も必要です。

もちろん IT の革新性が重要なことは理解していますし、ソフトウェアの力によって課題を解決することにはやりがいも感じるし、好きな仕事でもあります。

しかし、そこに何らかの哲学なり、人間性や文化への配慮なり、技術と社会、技術と人間などを俯瞰する視点ももっていないと、何かがずれていきます。以下の記事でも考えていますが、21世紀は科学とアート、文系と理系など、分野を横断して統合する力が問われています。

統合する力

ある程度の年齢になると、運動能力や物理的な認知能力は若い頃に比べると衰えてきます。しかし、統合する力はあまり衰えることはないと言われています。ジェロントロジーという研究では 結晶化能力= Crystalized intelligence と言われているそうです。この能力は言うなればインプットを統合してアウトプットする力です。

一方の 流動的能力=Fluid intelligence ばかりを知的能力と考えている人が多いのではないでしょうか。それは、新しい情報を記憶する能力であったり、視力や認知速度などのわかりやすい知的能力です。当然、若いうちは記憶力も視力も認知速度も高い状態なので、新しいことを学びやすく、いわばインプットに最適化されているわけです。

しかし、一般的な意味で体力や学習能力が衰えるように感じる30〜40歳くらいからは学んだこと、記憶したことをベースに、情報を再構築してアウトプットする力が問われるわけです。このとき、能力の転換をうまく行わないと、単に老化して能力が落ちたという道を歩むことになります。

統合する力をつけるには

結晶化能力というのは、○○と△△をつないで新しい価値を創るような能力です。心理学用語でいうところのゲシュタルト構築ですね。現在の日本で社会の上層にいる人は受験勉強を勝ち抜いた人たちですから、具体的な情報の羅列を記憶することに能力が最適化されています。ちょうど、社会自体が高度化・複雑化した時代でもあり、細かな事象を記録・記憶・管理することに長けている一方、全体を見渡す能力、統合する能力が欠如している人が多いように感じます。

最近の日本メーカーの製品を見ていても、高度な機能を実装していながら、全体としての使い勝手が統合されておらず、ちぐはぐ、とんちんかんな製品やサービスを目にすることが増えています。

インプットしたものを記憶してテスト用紙に書くだけでは、アウトプット能力とは言いません。多様なインプットを統合して、新しい価値に統合してアウトプットすることがゲシュタルト構築です。

視野の拡大と遊び心

多くの分野があまりに複雑化、高度化し、専門分化が進みすぎて、自分の領域以外には、関心を持てなくなってしまった人も多い気がします。事務系ホワイトカラーの専門性は、個別企業の個別事情の手続きに特化されたものが多くなかなか活用法がありませんが、理系・技術系の専門性は従来とは異なる分野や市場、人とつながることで新しい価値が生まれる可能性がたくさんあるはずです。

わたしは、自然界の森羅万象から人間の文化まですべてに関心があるし、全く異なる分野に共通する原理を探ることも好きなので、テクノロジー系、産業系の展示会以外に、アート系の展示会にも良く足を運びます。

ここ数年を振り返ってまると、以下のような展示会を見てきました。

ピクサーの秘密展 @ 森美術館
ブルーノ・ムナーリ展 @ 世田谷美術館
奇想の系譜展 @ 東京都美術館
河鍋暁斎展 @ 渋谷BUNKAMURA
北斎アニマルズ @ すみだ北斎美術館
長谷川潔展 @ 町田市立版画美術館
大哺乳類展 @ 国立科学博物館
よみがえれ!シーボルトの日本博物館 @ 名古屋市博物館
逢賴信義展 @ 上野の森美術館
ブリューゲル「バベルの塔」展 @ 東京都美術館
宇宙と芸術展 @ 森美術館
小原小邨展 @ 浮世絵版画美術館
大英自然史博物館展 @ 国立科学博物館
金の星社100年展 @ 上野の森美術館
いきものだいすき!薮内正幸の動物画展 @ 姫路文学館
マイセンの動物園展 @ 汐留美術館

エンジニアはもっと遊ぼう

昨今、ビジネスにおいても教養の重要性が問われていますが、ポイントは統合する能力です。教養が大事だからと言って多様な分野に学びを広げても、個別の具体的事象を記憶するだけでは、単なる雑学王になってしまいますし、あまり質の高いアウトプットには結び付かないでしょう。

AWS サミットから話が広がりすぎたかもしれませんが、視野の拡大として参考になれば幸いです。特に本ブログが応援したいと考えている技術者、クリエイター、経営者の方々にとって、市場と向き合うこと、感性をアクティブにして市場と向き合う機会を持つこと、そういったことを遊び心を持って楽しむことが、技術や作品を市場に届ける上で、ますます重要になってきていることと思います。

ということで、エンジニア、デザイナー、経営者のみなさん、よく学び、よく遊びましょう!

参考書籍

ジェロントロジー

展示会プロデューサーの仕事

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