生命進化に学ぶ生存戦略

ART
文字数:5,058字 | 読了目安: 約7分 | 公開日:2019.06.14 | 更新日:2023.05.13

早いもので前回の大哺乳類展(2010年)から9年の歳月が経過しました。この間も、人類の活動が多くの生物に影響を及ぼし、その存在を脅かしています。2019年の大哺乳類展2は哺乳類の「生存戦略」をテーマにした企画です。骨格やロコモーションに注目した展示など、たいへん興味深いものでした。今回は、哺乳類の生存戦略から学べることを考えてみましょう。

哺乳類に共通するもの

動物の骨格や筋肉に関して知るとき、いつもながら思うことが人間との共通点です。あの長いキリンの首も頚椎は7個で人間と同じです。哺乳類のほとんどが胎盤を持っていること(単孔目で卵生のカモノハシなどは除きますし、胎盤形状は様々ですが)を始め、肋骨や胸骨、仙骨や腸骨などの骨格の構成も類似しており、その生命の基本的な仕組みは驚くほどに共通しています。

現在生きている哺乳類は約4,600種、実に多様な進化を遂げました。共通の基盤を持ちながら、多様な環境に適応し、独特の生態と形態を獲得したものが生き延びてきたわけです。

進化の歴史に想いを巡らせながら目の前の骨格標本を眺めていると、何とも不思議な気持ちになります。進化論の自然選択と適者生存だけでは説明がつかないことも多いですから、なんらかのインテリジェンスを背景に生命が進化してきていることは疑いようがありません。

しかし、その知性として絶対的な存在としての人格神を想定するのは無理があります。物理化学の原理を含めた、すべての自然現象の相互作用に加えて、情報的な知性とエネルギーが、生命を生み出し、進化させてきたと考えるのが自然です。

わたしは、人類以外の生命、動植物の持つ知性に敬意を持ち、その知性から何かを感じ取り、学ぼうとする姿勢を持つことが、地球を平和に進化発展させる上で重要な立場であると考えています。

哺乳類展の意義

上野の科学博物館は丸の内のインターメディアテクと並び、大好きな場所のひとつです。思考を空間的に拡張したり、時間的に移動したり、実に多様なことを考えるネタを提供してくれます。哺乳類展のような展示会は物見遊山的に見る人も多いですし、単純に楽しむのも良いのですが、自らの生き方を考える機会としても活用したいものです

参考までに考え方の一つを紹介します。例えば、初めて陸に上がったイクチオステガなど、生命の進化において、大きな変革の分岐点にいる生きものに注目してみましょう。イクチオステガは、慣れ親しんだ水辺から初めて未知の陸上へと旅立った、いわば大冒険者です。こうしたチャレンジャーとして賞賛するべき種はいくつかいますが、今回は初めて木に登ったやつ!ツパイに注目します。

ツパイはリスに似た生きもので現在は、東南アジアの熱帯雨林に生息しています。現存するツパイと人間の共通の祖先が樹上生活に適応したことは、人類誕生につながる進化における大きな一歩だったのです。

四足歩行をしていた哺乳動物が樹の上で活動することにより、肩甲骨の自由度が高まります。やがて前足が手となり、木を掴むために親指が対向し、類人猿としての進化につながって行ったことが想像できます。そのティッピングポイントにいるのが、登攀目(とうはんもく)のツパイなのです。

勇者か脱落者か

最初に新しい環境に飛び込むやつはどんなやつなのでしょう。

未開の地を開拓する力強き冒険者?
現状の良い環境から追いやられた弱者?
新しもの好きの好奇心旺盛な探求者?

現代、会社の枠組みから飛び出して独立する起業家もこうした要素を持っていることでしょう。経営戦略の分野で、ファーストペンギンという言葉があります。未知の世界へと最初に飛び込んだやつが大きな市場利益を享受するという意味で使われています。

わたしが会社を辞めて、フリーランスとして独立したときの親や親戚の反応は次のようなものでした。

「ふらふらしてたのが、会社に勤めてようやくまともになったと思ったのに会社を辞めるなんて・・・」、まるで都落ちか島流しかの様な反応でした。

親や親戚はフリーターと個人事業主・フリーランスの区別もついていないのですが、まぁ、不安定さで言えば似たようなもんですから、あまり反論も出来ませんでした。

危険なブルーオーシャン

確かに未知の世界は危険がいっぱいです。予測不可能で、不安定です。しかし、既存の環境は競合がひしめいています。いわゆるレッドオーシャンです。一方のブルーオーシャン、新しい環境には競合がおらず資源=ビジネスチャンスも豊富にあるのです。

ツパイの祖先は、地上での餌資源の獲得競争に敗れ、木の上を目指したのかもしれません。あるいは、木に登るのが面白くて遊んでるうちに餌となる果実や花の蜜が木の上に豊富にあることに気づき、木の上にいる時間が増えるにつれ、樹上生活に適応したのかもしれません。

わたしの場合も両方の要素がありそうです。会社の論理に納得がいかない、事務的手続きやだ、通勤電車しんどい、競争的な争うビジネスやだ、Windowsやだ、という逃避者的な面が一方にあります。

もう一方は、インターネットが面白そう、自宅で仕事した方が効率的、自然が豊かな環境に身を置くとクリエイティブになれて楽しい、Macでクリエイティブが面白い・・・、といった遊び的な面です。こういう多面的なことを感じ、少しずつ、自分が好ましいと思う方向に行動していたら、いつのまにか、いまのスタイルになりました。

環境に適応する

新しい環境を好み、適応していったわけです。自然界においても、必ずしも強いものが生き残るのではなく、環境変化に適応できたものが生き残ると言われています。

環境と生きものの関係は相互依存的な要素もあり、興味深いものです。例えば、キサントパンスズメガという蛾とランの関係など、種の間に強い依存関係を見られることがあります。セスキペダレというランの蜜を吸うには30cm近い口吻が必要なことがわかり、ダーウィンがその存在を予見した蛾がキサントパンスズメガです。ダーウィンの予測から40年以上経過して発見されました。

どちらかが欠けてもお互いが存在できないような不思議な関係です。少しずつ共に進化した共進化ということのようです。新しいハビタットと適応者はいわば創発的に生まれるような気がします。

生物の生息に適した環境はハビタットと呼び、宇宙空間においても生命が生存出来そうな範囲にある惑星をハビタブルゾーンと言いますね。

インターネットという新しいハビタットが生まれ、そこに適応する種が新種の人類、ホモ・リレショーネ(いま勝手に名付けました)です。

リレーション、関係性、縁によって生きる人という意味で、「縁」人類と呼んでも良いかもしれません。このサイトのコンセプトにしている engene にもこじつけつつ、縁人類を定義すると以下のようになります。

「縁」人類とは

en 人類 :より人間らしくなる。21世紀の人間として進化する。
猿人類:我々は猿の仲間であり、哺乳類、そして全ての生命を朋とする。
円陣類:自律的で多様な個人により構成される円陣により進化する。

ユバル・ノア・ハラリ氏がホモ・デウスで提起したように、21世紀、人間は進化の階段を一つ登ろうとしています。そして、地球には人間だけが生きているのではありません。すべての生命の代表としての自覚を持ち、進化する必要があるのです。そもそも日本語で人間は、人の間です。我々は関係性の中に存在していると言えます。進化した人間の円陣が地球環境とインタラクションをもちながら進化していく必要があります。

新しいハビタットで活動しよう

SNS が普及し、すべてのものがインターネットに接続される IoT が拡張されるにつれて、いわば新しいハビタットがどんどん生まれています。そこでは縁人類が無数の組み合わせ、多様な関係性を構築しながら活動することで、また新たなハビタットが生成されていきます。

Habitat = 生息環境で無意識に繰り返される行動が Habit = 習慣ですね。キサントパンスズメガもツパイも植物の受粉を媒介する Habit により、Habitat の拡大に寄与しているわけで相補的です。

まさに、インターネット上での活動が新たな生態系を生み出していると言えます。そこは多様で豊穣でカオスな環境で、旧来の生命は対応出来ないリスクもある場です。巨大隕石の衝突による環境変化に対応できず、巨大な体を持つ恐竜が絶滅したように、現代の資本主義経済の中で巨大な存在となった企業や国家は、この変化に対応出来ないところも出てくるでしょう。

しかし、恐竜には「20世紀型企業」と「GAFAに代表されるIT系巨大企業」の2つのタイプがあります。

・20世紀型企業
大量生産大量消費社会、旧来型の経済活動に最適化され、全体主義的で官僚的で、革新性を失った組織は、GAFAのような新型の恐竜に駆逐されています。

全く環境の変化が見えていない恐竜や化石のような経営者が率いる硬直的な旧来型の組織は衰退の道を歩むことは必至でしょう。旧来の企業を構成している従来型のカイシャインもかなり淘汰されていきます。

・GAFAに代表されるIT系巨大企業
莫大な利益をあげ強大な力を持つ一方、働く人や取引先といったサプライサイドから顧客側のデマンドサイドまで、人間性の喪失につながるビジネス活動が社会問題として批判されています。

デマンドサイドでは、FaceBook や Google による個人情報の過度な利用が問題視されています。プライバシーや人間性を大切にするヨーロッパを中心にGAFAへの規制が強化されています。サプライサイドでは、Amazon / Uber / Apple などが過酷な労働環境を強制しているとして、批判されています。

GAFAもその利益最優先、革新性優先の姿勢をあらため、サステナブル=持続的で、エシカル=高い倫理観を持ち、人間性や社会性に配慮したビジネス活動を行わなければ、政治からの解体圧力に屈する可能性もありますし、消費者の反感や不信の影響も日に日に大きくなるでしょう。

生態系と進化

恐竜が絶滅した6500万年前、当時の弱者だった小さな哺乳類が今日の人類の祖先として生き残りました。我々の一人一人も小さな個人としての生存戦略をとることになります。現代社会を生態系として考えて見ると、多くの気づきが得られるはずです。

iPhone の成功要因の多くは、アプリ開発をサードパーティに開放して、世界規模でアプリを販売流通させるエコシステムを構築したことにあります。近年のグローバル市場では、プラットフォームとエコシステムの最適化が成功要因として欠かせないものです。

そして、GAFA/BATH に代表されるような生態系としてのビジネスプラットーホームの栄枯盛衰は、我々一人一人の選択と活動に依拠しているとも言えます。

個人としては、自らハビタットを構築するハビットを持つことが最大の生存戦略になるはずです。さて、我々はどちらに向かうのか。まずは、ツパイに相談してみますか。ツパイは、上野動物園の小獣館で出会うことができます。

参考書籍

哺乳類生態系とソーシャルメディア

進化系統樹
長谷川 政美

三中信宏氏は分類学や系統樹関連の著書が多く、分類の奥深さを教えてくれます。

タイトルとURLをコピーしました