野生動物に学ぶ生き方と戦略:ヤマネ編

Life
文字数:13,072字 | 読了目安: 約17分 | 2024.07.17 | 2024.08.30

ヤマネは反則級の可愛さで、おじさんから小学生まで大人気の生きものです。 ぼくもヤマネの魅力にはまったおじさんの一人です。

日本のヤマネはそもそも生息数が少ない希少種な上に、夜行性で一年の半分近くを冬眠して過ごすことから、観察や研究も難しく、わかっていない生態が多い生きものです。

そんな、謎めいていること、不思議なところも、魅力の一つと言えるかもしれません。

氷河期から生き延びてきたヤマネの生態、生存戦略を知ることは、我々人間の生き方、ビジネスの戦略を考える上でも多いに役立つはずです。ヤマネは、最小限の資源利用で最大限に豊かな生活を営んでいます。そこには、現代人が忘れてしまった「節度ある暮らし」と「野生の生命力」という両極の概念が秘められています。

野生動物に学ぶ生き方と戦略シリーズ、今回はヤマネについて考えてみましょう。

〜眠る〜

なんと言ってもヤマネの特徴は寝ること、冬眠です。丸まって眠る姿が可愛いことも魅力的ですが、「食べるものがないなら寝てしまえ」という戦略が秀逸です。

動物としては、餌資源がないとき、餌を探して行動範囲を広げるという選択枝もあったでしょう。しかし、活動量を高めればエネルギーを消費することになり、さらなる餌資源が必要になるジレンマに陥ります。

ヤマネは環境に抵抗することなく、次の春が来て暖かくなれば、花が咲き、虫が飛ぶことを信じて、冬眠を選択したわけです。

究極の「果報は寝て待て」戦略です。ここに現代人が自然から学ぶ重要なエッセンスが集約されています。

特に日本人は苦しいときに頑張ることを美徳としてきた国民性です。平成以降は変わってきましたが、戦前の軍国主義時代はもちろん、昭和の時代も続いた根性主義はいまだ社会に根強く残っています。

「果報は寝て待て」戦略は、昭和を生き抜いてきたど根性型世代には、「さぼっている」、「たるんでいる」ようにしか見えません。

しかし、環境や状況に抗って力づくで何とかする成果主義、他者を出し抜こうとする競争主義の弊害も年々大きくなっています。

経済的な成果の過大な追求は倫理的な問題を内在しており、不正や事故を誘発してしまうリスクもあります。四半期決算の数字を追いかけるような経営が、人や社会、自然環境に良い影響を与えるはずもありません。働く人が疲弊して辞めてしまえば、企業側にとっても多大な損失です。

ひたすら右肩上がりの短期的な利益を貪る金融資本主義の暴走を止め、持続可能な社会に移行していくためにも、休むこと、何もしないことの重要性を見直すことの意義は大きいはずです。

ヤマネは、「無駄な努力はしない」「果報は寝て待て」という選択枝があることを教えてくれます。

果報は寝て待て!
丸くなって眠るヨーロッパヤマネ

眠る技術

冬眠というのはリスクもある行為であり、ヤマネが寝るための技術を備えていることも忘れてはいけません。ニホンヤマネは冬がくる前に体脂肪を蓄えて、通常時18g程度の体重を30g程度まで増やした上で、心拍数・呼吸数・体温をコントロールして、いざ冬眠に臨みます。

平均気温が約9度を下回ると、通常時は36度の体温を零度近くまで下げ、心拍数も500〜540回から50〜60回程度にまで制御して冬眠に入ります。本能と言ってしまえばそれまでですが、もの凄い身体統御能力であると言えます。

しかも、外気温が-7度以下になった場合は、温度が低すぎることによる危険があるので、一度起きて別の場所に移動することがあるようです。眠っていてもサーモスタットは機能させているのですからスゴいですね。

(参考書籍:ニホンヤマネ 〜野生動物の保全と環境教育〜, 東京大学出版会, 湊修作 / ヤマネって知ってる?, 築地書館, 湊秋作)

ヨガの達人は呼吸数はもちろん、体温や心拍数を、意のままにコントロール出来ると言われています。こういう身体能力も、重要な知性の1つです。

企業経営で言えば、こうした知性は組織の統制能力にあてはめて考えることが出来ます。人・モノ・金・時間・情報を経営者が把握出来ているか、環境に応じて制御出来ているか、効率的に運用できているか。

一つ一つの業務を本質から見直す時期を作ることです。

ムリ・ムダ・ムラを排除する

ムリ・ムダ・ムラを排除することは、5S活動(整理・整頓・清掃・清潔・仕組み化)、TQC活動(Total Quality Control)などと合わせて多くの現場で実践されている活動であり、日本の製造業における現場の強さを象徴しています。

しかし、平成以降の日本では、現場の強さと反比例するように経営・管理の劣化が著しくなりました。小泉構造改革以降、新自由主義と株主資本主義の蔓延によって、短期的な数字に拘束された「成果至上主義」、自己保身しか考えていない「ことなかれ主義」の経営者・管理者が増えてしまいました。

中途半端な成果主義と効率主義の弊害も大きくなり、現場や下請け企業に丸投げして負担を押しつける、実務を知らない管理者・ホワイトカラーも増加の一途を辿っており、多重下請け構造の弊害も増幅される一方です。

さらに、コンプライアンスやら何やら社内外の過剰な管理統制も増える一方で、とてつもなく無駄な活動をしているように見えます。

重要な実務に集中する

ここで少し、ヤマネが実際に冬眠に臨む状況を想像してみましょう。

彼らは冬眠前の秋までに蓄えた栄養で、ひと冬を生き抜く必要があります。無駄な活動、不用意な体温上昇は命にも関わる重要な機能制御の一つです。

もっと食べる(売上を上げる)か

代謝をおさえる(経費を削減する)か

このバランスの判断が運命の分かれ道です。

我々も同じ位の緊張感を持って、一つ一つの仕事が本当に必要なものか考えたいものです。そして、現場で実務の実態を把握出来ていないと、何が重要な活動なのか、無駄な活動なのか、実践的な判断をすることも出来ません。

近年の中途半端なDXとAIブームで、無駄なデジタル化も蔓延しています。紙の書類、ハンコの押印が必要な業務を残したままのデジタル化、使いものにならないAIチャットなどは、無駄な取り組みの象徴と言えます。本当に重要な業務は何なのか、根本から考え直すことが必要です。

単なるコストカットではなく、忙しいときには出来なかったこと、業務の見直しや再定義など、無駄を省いて効率的な体制を構築するような期間を作ることが、足腰の強い経営体質を作り、次なる飛躍に結びついていきます。

組織としては、現場に不要な負担をかけ続ければ、ミスや不正を誘発するリスクがあります。個人としても、働きすぎで健康を害してしまっては元も子もありません。

特に成熟した現代社会では、モノやサービスは既に飽和してきており、新しい価値をどう構築するかが競争力の源泉となっています。新しい価値を創造するには、創造力が欠かせません。そして、創造力・クリエイティビティを発揮して、創造的な仕事をするには、休息や遊びは重要な要素なのです。

ムリ・ムダ・ムラを排除する
休むことも仕事のうち
サラサドウダンツツジ

好機には全力で動く

ぼくがヤマネを好きな理由の一つが、意外とワイルドなところです。逆さまにぶら下がってサラサドウダンツツジの蜜を食べる姿は、可愛らしいヤマネらしい光景です。

しかし、大好物のヤママユガが飛び交う時期、ヤマネは豹変します。いつもはおっとりとしたクリクリの可愛い目を三角に吊り上げ、ヤママユガをがっつりつかんで、ぷっくり膨らんだお腹にかぶりつきます。

その姿は、野生動物らしい逞しさを感じる生態です。ヤマネは、齧歯目でありながら歯は強くないので固い木の実が食べられません。季節ごとに花蜜、花粉、アブラムシ、蛾など、その時期に食べられる柔らかくて栄養価の高い餌資源を選択して食べているわけです。

花の開花時期、蛾が飛び交う時期、それぞれの好機を逃さずアクティブに全力で食べまくります。冬がくるまでに、冬眠に備えてたらふく食べて太るのです。

このメリハリ、静と動のバランスがヤマネの魅力でもあります。いわゆるギャップ萌えってやつですかね。

前項で休むことの必要性を考えてきましたが、あくまでも、ここぞという時にはアクティブに動くために、休むことが重要なわけです。活動するときには行動の果敢さ、やりきる覚悟も必要です。

野生動物も人間もここぞというポイントは多少のムリが必要なときもあります。ムリが平常化していてはいずれ破綻しますが、新しい事業を起こすとき、重要な仕事を任されたとき、一時的なムリにはチャレンジする気概を持たないと、法人としても個人としても淘汰されていく運命が待っています。

重要なポイントは頑張る
美しい眼状紋と可愛い触角が魅力的なヤママユガ

根性主義でもなく功利主義でもなく

ムリせず自然体でいることは大切ですが、単に元気や気力がないことと、自然体でいることは異なります。

ムリ・ムダ・ムラを誘発するリスクがある根性主義が時代に合わなくなっていることは確かです。しかし、若い世代の一部に増えている自己中心的な功利主義も感心できるものではありません。

何かと言えばコスパ・タイパが悪いといって、自己都合を優先し、面倒な仕事、難しい状況を回避し続けていては、ビジネスとしての成功も、人間としての成長機会もなくなり、幼稚なまま年を重ねることになってしまいます。

近年は、就職した若者がすぐに辞めてしまうことが中小零細企業の課題になっていて、特に肉体労働系のエッセンシャルワーカーやブルーカラーと呼ばれる職種では人手不足が深刻化しています。

結果として、外国人労働者の受け入れが進んでしまい、若年層の給与水準が下がる悪循環の要因にもなっています。

もちろん、こうした風潮について、若者だけを非難することは出来ません。平成以降、政治・行政、企業・教育機関も上に行けば行くほど、目先の損得に流された「今だけ、金だけ、自分だけ」の大人が増えてしまいました。倫理観も自立心もない、事なかれ主義の大人も目立つようになりました。

効率的に利益を得ることが行動原理となり、人生の目的のようになっている人さえいます。メディアがもてはやすインフルエンサーも自己中心的で功利主義の人が増えており、教育機関も若者に適切なロールモデルを提示出来ていないことが問題の核心です。

社会全体として、いまだに記号としての学歴信仰に基づいて、有名大学への進学と大企業への就社をゴールにするような教育しか出来ていないのですから仕方ありません。

新しい道

こんな時代ではありますが、市井には地道に倫理観の高い生き方をしている人、新しい価値観で人生を切り開いている人たちが存在します。特にぼくの住む北杜市には、自然と調和した暮らし、新規就農、半農半X、パーマカルチャー、エコビレッジ、自然保護活動に取り組む人など、高い倫理観と人生哲学を持って生きているユニークな人が数多くおられます。

もともと移住者が多い地域ではありましたが、コロナ以降は特に都市からの移住者・二拠点居住者も増えてきて、個性溢れる多様な生き方をしている方たちがアクティブに活動する地域になっています。

北杜市とヤマネ

北杜市はヤマネの生息地としても知られており、清里にはやまねミュージアムがあり、北杜市の動物にも指定されています。長年、やまねミュージアムの館長を勤めておられた、ヤマネ研究で有名な湊秋作さんも北杜市で活動されています。

ぼくは1996年に八ヶ岳南麓へ移住してきた頃、湊さんに出会い、活動をお手伝いするようになりました。当初は和歌山で小学校の教諭を勤めるかたわら研究を続けておられましたが、北杜市に移住されて、やまねミュージアムの館長、関西学院大学教授を歴任された後、(一社)ヤマネ・いきもの研究所を設立されました。

現在も、北杜市を拠点にヤマネを始めとするいきものの調査・研究・保護から環境教育まで、広範な分野で真摯な活動をされています。詳しくは、ページ下部にヤマネ・いきもの研究所のWebサイトにリンクを貼っておきますので参照ください。

野生動物の保護活動は多くの方が応援してくれるものですが、リアルな課題に直面する現場は一筋縄でいくものではありません。対象動物の生息環境と生態についての地道で科学的な調査・研究も必要不可欠ですし、関係諸団体との調整など、活動を成立させるためには財政面を含めた膨大なマネジメントも必要です。

自然環境の保全、野生動物の調査研究、環境教育といった分野は、ビジネスになりにくい活動も多く、経済合理性と社会課題解決の狭間で、難しい舵取りが必要になります。

ヤマネ・いきもの研究所ではクラウドファンディングを実施するなど、活動を支援・協力してくれる方を募っているので、興味のある方は支援していただければうれしく思います。

北杜の自然と環境は、多様な豊かさを育んでいます。次の項ではヤマネの生息環境と生態について考えて見ましょう。

ニッチ戦略

現代の企業社会は、経済合理性・規則遵守を絶対視するあまり、人間性を喪失しつつあります。物質的な豊かさと引き換えに、都市生活は心の豊かさを育む感性を衰退させてきました。

都市生活に疑問を抱いた人は、田舎に移住したり、地方と都市での二拠点生活を営むようになっています。行き過ぎた管理主義の非人道性に気づいた人は企業社会を抜け出し、スモールビジネスにチャレンジする人も増えています。

多様な生物が自分に適した生息環境(ハビタット)を選択しているように、ビジネスでも暮らしでもハビタットの選択は重要な要素です。そして、我々のようなスモールビジネスを営む経営者にとって重要なのがニッチ戦略です。

ポジショニングを重視する経営コンサルタントの間でも「Niche is rich」という言葉が標語になるほど、ニッチを見つけることが重視されています。

いわゆるブルーオーシャン戦略は体力のある企業でないと取りにくい戦略ですが、スモールビジネスにはニッチ戦略が最適で、ニッチになればなるほど成功する、ニッチほどリッチになるという意味で使われています。

とは言え、既存の枠組みを外れた仕事や暮らしを営むことは簡単なことではなく、経済的なリッチになれるかどうかは未知数です。しかし、わが道を歩んでいる人たちはみな活き活きとしており、人としての魅力に溢れています。少なくとも経済価値に還元されない豊かさという意味では、ニッチはリッチだと言えるでしょう。

そして、生物界も見渡せば、生息環境と生態の組み合わせで、微妙なニッチが構成されており、多様な生き物がそれぞれの個性を発揮して豊かに共存共栄しています。

ヤマネもニッチな環境で生きる独自の術を備えており、その特徴的な生態が逆さま移動です。

常識を疑う

樹の上で行動することを得意としている樹上性動物には、ヤマネの他に、ニホンリス、ヒメネズミ、テン、モモンガなどが存在します。

ほとんどの樹上性動物は枝の上を移動しますが、ニホンヤマネは逆さまにぶら下がって枝の下側を移動することができます。この樹上性動物界の常識破りとも言える能力によって、細い枝の先まで素早く移動して花蜜や花粉を食べることが出来るようになったのです。

湊さんが行ったワイヤーロープの利用に関する対称実験では、ヒメネズミはロープの上を渡ろうとするので姿勢を保つことが出来ず、ジタバタするばかりでした。ところが、ニホンヤマネはロープの下側を逆さまに伝ってすいすいと凄い速さで渡っていきます。

枝の下側を利用することで、上空から猛禽類に襲われるリスクも軽減されます。何より、逆さ移動が出来ることで、枝先の花に効率良く到達することができ、サラサドウダンのような下を向いて咲く花にもアクセスしやすくなり、開花時期により多くの栄養を摂取することができるのです。

従来の方法や一般常識とは、真逆のことをやってみる

スティーブ・ジョブスがAppleに復帰した後、始めた広告キャンペーンのテーマはThink Differentでした。常識に縛られず、独自の思考を積み重ねることが、創造力の源泉です。

AIが進化した現在、定型的・形式的な仕事は、ますます自動化されていきます。他者と同じ道を歩み、同じ思考をしていては、生存競争に埋もれていくことになります。

AI時代、人間の仕事は、わが道を進む創造力がますます重要になってくるでしょう。

他者とは違う道を歩む!
Think Different!

引き算の美学

逆さ移動は日本のヤマネに特徴的な行動で、欧州のヤマネは枝の上側を移動することが多いようです。ぼくはこの話を知ったとき、日欧のノコギリや鉋の使い方の違いを思い出しました。

欧米では、ノコギリは押し切り、鉋も押してかけます。日本では、ノコギリは引き切りで、鉋も引いてかけます。洋包丁は押し切り、中華包丁は叩き切り、和包丁は引き切りです。

こういう部分にも、風土に根ざした気風が表れているような気がします。和包丁で魚を刺身におろす繊細な所作は、対象を引き込み、一体となって処する和の心を感じさせるものです。

ニホンヤマネの逆さ移動も、重力に逆らわず、重みを利用するしなやかな動きには、何となく日本らしい体の使い方が感じられます。

押してダメなら引いてみる
しなやかさと引きの美学

これからは、西洋と東洋、北方と南方、対立してきた文明と文化を調和させていくことが必要な時代です。物質文明が飽和した現代社会では、唯物論から脱却して精神文明を再考するべき時期になりました。

一神教を信仰する社会も、信仰を失った無神論・唯物論の社会も、個人の巨大化した自我の暴走を止めることが出来ず、世界各地で争いが絶えません。溢れるモノと刺激の強い情報の洪水で、現代人の感性は衰退し、繊細さを失っています。まるで、自ら生み出す欲望の海に溺れていくかのようです。

一方で引き算の美学を持つ日本文化には、いまここに在るものに価値と喜びを見出す 侘び・寂び といった独特の感性があり、調和を重んじる 大和 の心とともに、世界に広めていきたい大切な精神文化です。

ここから少しテーマを広げて、現代の世界情勢を東洋と西洋の融合、和の心から考えてみましょう。

枝の上を移動するヨーロッパヤマネ

△(支配)から○(調和)の時代へ

大航海時代に始まり、略奪と搾取の歴史を刻んできた西洋文明の暴走はそろそろ止めなくてはなりません。西洋型の世界観は一極支配(Unipolar hegemony)であり、ドル紙幣にデザインされているように、欧州王侯貴族と中央銀行を頂点とした金融資本勢力に支配されたピラミッド構造です。

西洋型の金融資本主義、トップダウン型の管理構造は人間性を破壊する方向で暴走しています。西洋文明の利便性、金融通貨に支配された華やかさや豊かさ、欧米が決めた価値観に世界中が隷属していた時代は終焉を迎えようとしています。

BRICSとグローバルサウスは、G7より人口も経済規模も大きくなりました。欧米ディープステートが世界支配の道具として恣意的に運用してきた金融決済システムのSWIFT、米国の軍事力と石油取引を武器にしてきたペドロダラーの支配力も崩れつつあります。

BRICSは、資源に連動した金本位制に近い金融制度を志向しており、各国通貨での貿易により、脱ドル化= De-Dollarisationもじわじわと進行しています。ドルへの依存、ドルによる世界支配構造からの脱却です。ドル紙幣を刷るだけでいくらでも富を創造出来た米国の支配力は弱まり、ドルも価値交換の道具という通貨本来の役割に帰結してくことでしょう。

BIRCS陣営は、平均年齢が若く世界一の人口となったインドがいて、資源豊富なロシア・ブラジルがあり、BRICS経済圏はさらなる成長が見込まれています。△(三角形)の一極支配構造から○(円型)の多極化世界へと変化が起きています。

丸くなって眠るヨーロッパヤマネ

持続可能な経済活動へ

日本では高度経済成長期が終わった平成以降、株式上場や事業売却で一攫千金を狙って成功するような事業領域も少なくなりました。世界的にもリーマンショック以降、金融工学と称する詐欺的錬金術であった金融デリバティブに象徴されるような、実態経済に連動しないバブル経済の虚構も破綻しています。

莫大な金を儲けることが出来る投資分野が減小するに連れて、収益至上主義の巨大無国籍資本の強欲さが暴走しています。特に、医療と健康、農と食という生命に関わる分野で莫大な金を儲けようとしている勢力により、自然の生態系が破壊され、人間の尊厳と存在が脅かされるレベルに達しています。

一方で地球環境の危機的な状況や、高度経済成長期に構築されたインフラの老朽化、高齢化で過疎化が進む地方の農山村の状況を考えれば、やるべき仕事は山のようにあります。地に足を着けて実体経済を活性化していくことが重要です。

これからは、短期的に莫大な利益を追うような株主金融資本主義、金で金を生み出すような虚構経済ではなく、実体経済を中心として、地域経済と地域社会に貢献する地に足の付いた商い、大地に根ざした暮らしを営む時代になっていくはずです。

日本でもここ30年、新自由主義のもとで「今だけ、金だけ、自分だけ」の連中がのさばる社会になってしまいましたが、今一度、日本的で持続可能な企業経営に回帰することが重要です。

世界でもっとも古い企業は、西暦578年創業で寺社仏閣建築を手がける金剛組です。日本には、創業200年以上の企業が1340社あり、その数は世界一を誇ります。

※ さすがに現代社会で寺社仏閣を専門とする企業経営は難しかったようで、現在は高松建設グループの一法人になっていますが、宮大工の伝統は続いています。

日本は昔から里山文化に象徴されるように自然環境を維持しながら、伝統的で持続可能な商いを営み、発展させてきました。

里山文化の再興へ

そもそも、日本の歴史は皇紀で2684年に渡って持続してきており、さらに古く縄文から受け継がれてきた日本文化は調和の精神を基盤としたものです。

森と田んぼを持続的に維持管理してきた日本の里山文化は世界に誇れるものです。一方で日本の農山村は経済合理性から取り残されたまま、農家の方々の高齢化が進んており、里山の存続が危ぶまれています。

森林を伐採したソーラーパネルの設置もいまだに行われている中、松枯れ・ナラ枯れの問題など、森林にまつわる課題も山積しています。果たして日本の森林と林業を再生する最適解はどのようなものになるのでしょうか。

自己利益の最大化しか考えていない事業者と政治屋の推進するソーラーパネルが、日本の山林と自然を崩壊させています。日本各地で起きているクマの出没も山林面積と餌資源の減小が原因と考えられます。自己の利益しか考えていない悪質な事業者、パネルの老朽化や破損による有害物質の浸出、伐採による土砂流出、インバーターが発する高周波の生態系への影響など、懸念事項は山積しています。

ヤマネを始めとした森の生きものたちが棲む環境を健全に維持していくには、どうすれば良いのでしょうか。

社会的課題を解決する

森林の維持保全、林業の再構築については、杉・檜から広葉樹への転換、GISやドローンを活用したIT化、自伐型小規模経営、育苗植樹を専門にした伐らない林業、リラクゼーションや環境教育の場としての活用、個人向けの小規模区画レンタルなど、林業の再定義、再構築に取り組んでいる事例が増えています。

多様な取り組みが試行錯誤している段階から少しずつ成功事例が見え始めているように感じます。

ここでは生物多様性についての社会課題を解決する方法として、ヤマネの保護活動に取り組む湊さんの活動からその方程式を考えてみたいと思います。

ヤマネを守る

日本中に張り巡らされた道路が森を分断していることで、ヤマネやリスといった樹上性動物は生息環境を奪われ続けてきました。地面に降りて道路を横断することで轢かれてしまうロードキルも起きています。湊さんはこうした現状を訴え続け、樹上性動物が安全に道路を渡れるようにするための歩道橋となるヤマネブリッジやアニマルパスウェイの建設を提言してきました。

湊さんの呼びかけに大手ゼネコンや建設関連企業の有志の方、行政や多様な分野の方たちが応えてくれることで、ヤマネブリッジやアニマルパスウェイの建設が実現してきたのです。

企業はCSR (Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)の一環として支援してくれ、企業の中の人も公私に渡り多くの人が、手弁当で活動を支援してくれました。

活動の鍵は?

こうした活動には、6つの要素があると思います。

1)情熱

まず、ヤマネのことを守りたいと思う情熱とエネルギーです。一人でも行動するという湊さんの気概が、結果として多くの人が協力してくれる磁場を形成していく力になっています。

2 )具体性
ともすると、環境保護運動は感情的になりすぎて、原理主義に傾いてしまいやすいものです。誰かを悪モノにして正義の味方ごっこをするような原理主義は、社会との軋轢を生み、自己満足に陥りがちです。

ヤマネを守るためには、樹上性動物に配慮した仕組みを具体的に構築することが必要です。環境や状況に応じた具体的な手法として、ヤマネブリッジやアニマルパスウェイの多様な形態が考案されてきました。

観念的理想論と現実的実務論の両面に責任を持つことが重要です。

3)科学性

アニマルパスウェイは、有志の建設技術者の方々の協力を得て、構造・材質・強度・耐久性など、生物学的な実験結果と建設工学的な裏付けをもって設計されています。建設業界の最前線で仕事をしている技術者が、野生動物であるヤマネやリスが安全に利用できるように、生態や行動に配慮した構造を考案してくれたわけです。

候補地の選定においても、事前に綿密な生物学的な調査が実施され、併せて実施する導入経路の確保についても科学的な知見に基づいて対象動物が利用する樹木の植栽などが考えられています。

どのような素晴らしい理念も、仕組みとして広めていくためには、客観性・合理性・再現性・科学性が必要です。

4)事業性

経営学の巨人ピーター・ドラッカーが非営利活動法人においても顧客を定義することを推奨したように、事業としての発想とマネジメント、事業感覚は必要不可欠なものです。

5)持続性

湊さんのヤマネ研究は50年におよび、アニマルパスウェイの活動も 2004年にアニマルパスウェイ研究会が出来て以来、20年になります。一歩一歩、出来ること、意義のあることを地道に積み上げ、継続していくことが大切です。

6)楽しく

湊さんの活動が継続してこられたのは、多くの方に参画してもらい、チームで協力して課題解決に取り組むことの意義や楽しさを大切にされてきたことが大きいと思います。

ヤマネの魅力はもちろんですが、チームのみなさんの人柄の良さ、楽しさが活動を継続する大きな力になります。

社会的課題の解決は、情熱を持って、具体的で科学的な取り組みを、持続的に楽しく実践していく事業なのです!

情熱 x 具体性 x 科学性 x 事業性 x 持続性 x 楽しく

道路工事や森林の消失は日本各地で起こっており、まだまだ、ぼくらが出来ることは山のようにあるはずです。森を象徴するヤマネといういきものを通じて、多くの人の関心と協力が集まることで、森を守る活動につながっていきます。

日本の里山に暮らす人といきものが、ともに活き活きと生きていける社会をつないでいきましょう!


我が社でも、より多くの人が活動に関心を持ってもらえるように、ヤマネのグッズや樹上性動物をテーマにしたイベントなどを企画しています。


動物画家・薮内正幸さんのイラストを中心に、いきものの細密画をデザインしたグッズを企画・製作・販売しています。スマホカバー/革製品/Tシャツ/トートバッグなど、ヤマネを始め、樹上性動物のグッズも用意しています。

いきもの細密画アートグッズ 公式ストアで ヤマネグッズの一覧を表示

関連情報

「森の宝ヤマネを守ろう」ヤマネ・いきもの研究所のチャレンジするクラウドファンディングです。セカンドゴールを達成して、活動の場が広がっています。

ヤマネ・いきもの研究所のWebサイトです。北杜市高根町の里山で、田んぼやため池でのいきもの調査など、多様な活動を展開されています。

【2024/7/24追記】

ヤマネ・いきもの研究所(DWI)のWebサイトで、本記事をご紹介いただきました!

https://www.yamane-ikimono.org/news/2024/【ブログ記事紹介】『野生動物に学ぶ生き方と戦/

ヤマネ・いきもの研究所では、生物多様性を考慮した事業活動を創出するための企業人向けセミナーを実施しています。このセミナーシリーズは、講義、フィールド体験、ワークショップなど、知識や情報をリアルな体感と臨場感を伴って学べる構成になっていてお勧めです。

ぼくも企業緑地の取り組み事例を学ぶ場として二子玉川RISEで開催された回のほか、2024年7月1日〜2日と八ヶ岳の田んぼで生きもの調査を体験する回などに参加させていただきました。一連の学びについて、別記事でも取り上げたいと思います。

また、2024年10月17日(木)〜18日(金)には、ヤマネと森をテーマとした生物多様性セミナーも開催される予定ですので、ヤマネ好きな方はもちろん、野生動物と森林の関係、生物多様性に関心のある方にお勧めです。ぼくも参加する予定ですので、ヤマネや生物多様性に関心のある方々とお会いできることを楽しみにしております。

以下は、昨年の開催時のチラシです。

https://www.yamane-ikimono.org/news/2024/🍁企業人のための第2回生物多様性セミナー開催

アニマルパスウェイと野生生物の会のWebサイトです。

参考書籍