DX時代の経営と IT 人材戦略を考える

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文字数:6,236字 | 読了目安: 約8分 | 公開日:2020.01.10 | 更新日:2023.07.21

IT の重要性が増すにつれ、IT 人材の活用が重要な経営課題として認識されてきました。しかし、IT 人材はそもそもどこにいるのか。どう育てれば良いのか。一般企業にとってはわからないことばかりかもしれません。今回は、IT 人材との向き合い方、活用の考え方を提供出来ればと思います。

変わり続けるITの世界

著しい技術革新を続ける IT の世界では、3〜5年で技術動向が大きく変化します。IT 技術者にとっても、学んだ 技術や知見が陳腐化するリスクにさらされ続けることになります。一定期間毎にまとまった時間と費用を学習に費やし続ける必要がある IT 人材は、既存の人事体系と同列に扱うことが難しいものです。

正社員として自社に取り込むには常に一定の教育コストも合わせて投下する必要があるし、どの技術を学習させるかなど、雇用者側が IT に詳しくないと教育計画を立案することもままなりません。

また、自社で育てる場合のリスクとして、IT 人材の流動性 もあります。最新分野では常に人材が不足していますから、自社で教育した社員の IT スキルが向上し、時流に沿ったものであればあるほど、その社員の市場価値が高まり、人材流出の可能性を高めることになってしまうリスクも内在しているわけです。

社員教育が半ば人材の社外流出を促進する滑走路のような役割をしてしまうことにもなりかねません。では、社外で IT 人材を探す場合はどうでしょうか。

優秀な人材を惹きつけるには

外資系やベンチャー系は優秀な IT 人材を高額な報酬で処遇してきましたし、一部の上場企業を中心に人事体系を見直して IT 人材の確保を始めたところも出てきました。報酬の上昇傾向が続く中、雇用条件、労働環境などとも合わせ、魅力的な仕事環境をアピール出来ないと優秀な人材は呼び込めません。IT 系の人材は、トレンドとなりそうな技術を学習する機会やりがいのある仕事を求めている傾向もあります。

技術的にも新しいことが学べるチャンスとなることや、優秀なチームに参加することが大きなモチベーションとなります。自社のビジネスにとっても効果的で、なおかつ、IT人材にとっても参加することが魅力的なプロジェクトを創出できるかが鍵と言えます。

しかし、自社の経営課題における優先順位や経営戦略とマッチしなければ本末転倒です。

IT の方針や戦略を確立する

自ら IT の活用方針や戦略を練り、具体的な実行計画を立案し、必要な技術や実装するべきシステムの仕様を定義する必要があるわけです。その上で、特定のスキルを持った人材を雇用するなり、人材派遣なりで、アサインすることになります。

しかし、経営レベルで IT に詳しい人間がいない以上、IT を活用した経営戦略など立案しようもないはずです。いわば、鶏が先か卵が先か問題でもあり、どうすれば良いのでしょうか。

オフィス機器を納入している調達先に相談する、クラウドソーシングや比較サイトで検索する、コンサルタントに頼る、業界団体や経営者の人脈をあたるなど、多様な方法が考えられますが、いずれの場合も簡単なことではありません。

外注先となる会社を探す

経営レベルでの戦略に関わるパートナーとなるわけですから、難しい選定作業になります。導入すべき機能や仕様が明確ならば、外注先も見つけやすいかもしれません。しかし、IT に詳しくないと要件も仕様も優先順位も定義出来ませんから、外注企業を探すことも難しい作業です。

金融業界では、数年前からフィンテックが話題になり、 IT の活用が主戦場とも言える状況になりました。

しかし、所管官庁の意向を忖度することや社内政治に熱心で、IT への理解も経験も当事者感覚もない経営者にフィンテックの戦略的な導入など出来るはずもありません。少しググっただけでも、金融機関や行政・自治体における大規模プロジェクトの迷走ぶり、訴訟騒ぎなどは枚挙に暇のないほど出てきます。

受注側となる IT 企業の側もいわゆる SIer や大手企業のシステム関連子会社などでは、実績重視の傾向が強く旧来の技術やプロジェクト管理手法に最適化されすぎていて、最新の IT 技術やビジネス環境に対応出来ていないところが多いことも問題を助長しています。官僚的な企業体質ともあいまって、迷走プロジェクトやセンスのないソリューションを量産し続けています。

大手企業の名前を信用出来るか

こんな状況でありながら、金融機関や行政・自治体における大規模プロジェクトだけでなく、一般企業から中小零細企業にいたるまで、発注先としていまだに大手企業の名前に弱い傾向は変わりません。しかし、大手企業の名前を冠して受託開発を中心にしてきたシステム関連子会社は、旧来の技術と組織に最適化されています。

受注側・供給側が最新の IT 技術とビジネス環境に対応出来ていない上に、発注側企業に要件定義も戦略もないのですから、一部のベンチャー企業と外資系をのぞき、旧来型の日本企業、日本社会全体が足並み揃えるようにITオンチ化してしまっています。

日本的な外注方法の問題

システム開発案件やWebサイト制作の外注において、IT 戦略も要件定義も仕様もない状態で、合い見積をとったり、提案を要求する企業は少なくありません。請負業務として IT システムの開発を契約するには、本来は受託企業側と顧客側企業の双方で要件の詳細や技術上の制約条件を確認したり、条件交渉をしないとならないことが山のようにあります。

しかし、ありがちなのが発注側の担当者も受注側の営業担当者も、技術を理解しておらず、曖昧なまま重要な仕様や要件が語られることなく、受発注してしまうことです。IT企業側でも窓口となる営業担当者はプログラムを書けないことも多く、半ば伝言係のような人も少なくありません。

発注側企業でも意志決定が出来ない発注担当者も多く、受託企業側の営業も十分に仕様を詰めることなく仕事をとってしまいます。

いわば、日本的な 丸投げ & 忖度 の世界です。

結果としてプロジェクトがかなり進行してから、必要な要件や仕様がわらわら出てきてプロジェクトが破綻するわけです。

こういった状況を考えると、適切な外注先を選定してプロジェクトをマネジメント出来る体制がユーザー企業側にあるかと言えば、難しい状況でしょう。まして、そもそもの IT 戦略の構築など出来るはずもありません。

先に見たように自社で個別の人材を確保して、IT プロジェクトをマネジメントすることもままなりません。では、自社に最適な IT 戦略を構築するにはどうすれば良いのでしょうか。

経営のわかるITパートナーを見つける

コンサルタントやコーディネーターは?

IT コンサルタント、IT コーディネーターなどの方もおられます。個別には優秀な方もいらっしゃるはずです。しかし、こうした方々は中小企業診断士や公認会計士などの士業をベースにされている方も多く、実際のコーディング、プログラミングは出来ない方も多いはずです。

また、どちらかといえば事務的、分析的な指向性を持っておられ、最新の IT をベースとしたビジネス感覚をキャッチアップされていない傾向もあります。Windows や Office、Basic に代表されるような、事務寄りの技術を得意とされている傾向もあります。

IT ビジネスの肌感覚を持ち、最新の技術動向を踏まえて、クラウドやスマホ・タブレットも含めた IT プロジェクトを俯瞰して、実装までフォロー出来る人材はなかなかいないのが現状ではないでしょうか。

経営コンサルタントも同じですが、SWOT だファイブフォースだとあれこれ分析してみたところで、その戦略を実践するリソースがなければ机上の空論です。

経営がわかるエンジニア・プログラマ

IT が経営の重要な課題となったいま、経営的視点を持ちつつ、実際にコードもかけるエンジニア・プログラマが必要とされているのです。前置きが長くなりましたが本記事でお勧めしたいのが、経営のわかるエンジニア・プログラマ を経営者のブレーンとして持つことです。

経営者自身が当事者意識を持ち、IT 活用を重要な経営課題として理解するように努め、信頼出来るエンジニア・プログラマを身近に置いておくことが必要です。

なぜ、エンジニア・プログラマを勧めるかと言うと、どのような仕事でも実務レベルで、理解することが重要だからです。これは事業や仕事についての本質論とも関係しますが、ホンダの本田宗一郎氏は優秀なメカニックでした。サントリーの佐治敬三氏は、優秀なウィスキーブレンダーでもありました。

神は細部に宿る

例えて言えば、良い建築家は現場に出て、大工や職人さんを尊重し、手伝ったりしながら以下のようなことを確認しているものです。

・設計意図が伝わっているか
・間違った施工をしていないか
・質の良い仕事をしているか

上から目線で業者扱いして監視するようやり方は、現場の自主性を奪い、現場から疎まれるだけです。往々にして、図面に表現されていないようなディテールの仕上がりが建築の質を左右することも少なくありません。

わかっている建築家はうまく現場に出て、職人に目を光らせ、良い仕事を評価しています。職人の方も、あいつはわかってるから手を抜けね〜なと思うし、ちゃんとポイントを見ているから、良い仕事を見せてやろうという意欲も湧きます。

こういう意味で、経営と現場をつなぐ、IT 技術を分かっている人材が必要なのです。そのことに気ずいたコンサル会社は、コンサル自身がプログラムを学び、プログラマのコミュニティに参加し、プログラマを自社で雇用するようになってきています。

契約の考え方

日本の大企業でも雇用慣行の見直し機運が高まっており、今後は日本でもプログラマーやデザイナーなどのクリエイティブ系の職種を中心に直接雇用する機会が増えるはずです。ようやく、日本でも専門性を持った職種で企業を渡り歩くような働き方が普及してくる可能性もあります。

契約も多様化するでしょう。契約について確認しておきますと、正社員や契約社員は雇用契約ですね。物理的な商品や材料を購入する場合、ソフト的に仕様が確定しているサービスの提供を受ける場合は売買契約です。

仕様や条件に合意して、仕様書・要件定義書・設計図書等に基づき、成果物の納品を必要とする場合は、業務請負契約になります。税理士や弁護士など法的助言を行う士業との契約は委任契約ですね。

コンサルティングやアドバイス、ソフト的な企画・制作・調査などの作業に対して対価を支払うのが、業務委託契約準委任契約ということになります。成果物に対して報酬を払うのではなく、助言、相談、調査、制作等の作業に対して報酬を払う契約です。

前述したように IT 人材を自社で抱えるには多様な課題があり、現在の市場環境を鑑みれば、一般のユーザー企業が優秀な IT 人材を雇用することは相当に難しいことも事実です。

現時点でお勧めしたいのは、業務委託契約の準委任契約で、エンジニア・プログラマを確保することです。

IT ゼネコンの悪習

日本における IT プロジェクトの問題の一つに、IT ゼネコンと揶揄されるようにシステム開発案件が請負契約でなおかつ多重下請け構造になっていることがあげられます。前述したように複雑な業務に対応するための仕様や要件が曖昧なまま、請負契約が結ばれ、丸投げ&忖度が多重化してしまうわけですから、冷静に考えれば無茶苦茶な話です。

少なくとも、本体のシステム開発の前に要件定義や業務調査などの工程を取り入れることが必要です。要件定義や業務調査だけを別工程の業務として切り分けるだけでも、だいぶものごとが整理されるはずです。しかし、一般的にこういう切り分けが普及しているようには見えません。

いきなり結構な金額の IT 案件について、入札やら相見積、コンペやら提案要求みたいな話が出る傾向は変わっておらず、実際にプログラムを組む立場から見たら狂気の沙汰としか言いようがありません。

IT 活用お勧めの方法 3種

整理しますと、わたしがお勧めしたい方法は以下の3つです。

1.エンジニア・プログラマを業務委託契約の準委任契約で経営者・経営層のブレーンとして確保する

2.業務調査、要件定義、仕様書作成、IT 戦略立案などについて段階的な請負業務契約を経て、実際の開発案件の体制を決定する

3.一定期間毎にとにかく実際に動作の見えるシステム、動くプロトタイプを開発する

2の段階的な業務委託は、一括での相見積やコンペ実施に比べればずっとマシですが、仕様書作成や要件定義を精緻にやろうとすると、膨大なドキュメント制作業務が発生してしまいます。しかも、ドキュメントによる要件定義では実装段階になって、想定外の仕様や条件分岐が山のように出てくるはずです。

わたしがお勧めしたいのは、これらの方法を組み合わせることです。特にお勧めしたいのが、プロトタイプ開発です。画面構成や画面遷移を実際の動作状況に出来るだけ近づけたプロトタイプを作り、操作手順や画面毎のビジネスロジックなどを検討します。プロトタイプ開発については、以下の記事に詳しく書きました。

1と3については、ENWIT でもサービスを用意しています。経営者向け IT 支援サービス「IT Engene」とプロトタイプ開発サービス「Agile Engene」」、定額型システム開発サービス「System Engene」です。詳しくは以下のリンクに記載しています。

・経営者向け IT 支援サービス 「IT Engene」

・プロトタイプ開発サービス「Agile Engene」

・システム開発定額サービス「System Engene」

IT は道具に過ぎません。経営者はもっと IT を活用しましょう。 IT エンジニアは、もっと経営を理解しましょう。本記事が双方の理解につながれば幸いです。

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